2.陰陽師になろう

 僕は考えた。

 考えに考え、どうにかして面接を受けることなく、かつそんなに働かずにお金を得られる方法を見つけ出した。

 ここはおじいちゃんが生前やっていた古書店なんだ。

 だったら古書店を開店すればいいんだ、と。

 そうと決まれば僕は古書店の開業に関する情報を集めた。

 古書店の開業には古物営業許可という許可がいるらしい。

 おじいちゃんがお店をやっていた頃には当然許可はおりていただろうけど、もうおじいちゃんが亡くなってから数年経っている。

 新しく許可を取る必要がある。

 しかしながら、古物許可は未成年では取れない。

 しょうがなく僕は父さんに代わりに許可を取ってもらった。

 父さんは生活していけるほどは儲からないと思うぞと言っていたけど、そんなことはやってみないことには分からない。

 僕にはこの店だけが希望なんだ。

 許可申請手数料の19000円は痛い出費だけど、きっとそれに見合うリターンがある。

 僕はそう信じて開店準備をする。

 おじいちゃんのコレクションを売るわけにはいかないのでお店に残っていた在庫だけでの営業となる。

 いつかは尽きる在庫のことを思うと、どこかで仕入れを行わなくてはいけないだろう。 

 ブック〇フとかでいいのかな?

 うーん、わからないな。

 おじいちゃんの店の在庫を見ていくと、どうにもあまり有名作家の小説みたいな本は少ないように思える。

 もっとマニア向けの渋い本だ。

 ブック〇フにそんなのあるかな。

 まあよくわかんないけど、僕が面白いと思う本を仕入れていけばいいのかな。

 営業許可が下りるまではまだ1ヶ月くらいはかかるかもしれないと父さんは言っていた。

 大学の入学式にはギリギリだけどまあなんとかなるでしょ。

 バイトの面接から開放された僕の心は軽かった。






 ”本書は大陰陽師安倍晴明が記した陰陽道に関する数多くの書物を、私土御門秀親が自分なりに解釈し、実際の修行法や儀式の手順、術の極意などをできるだけ読者の皆様にわかりやすいようにまとめたものです。この本を最後まで読んでいただければ、あなたもきっと立派な陰陽師になっていることでしょう。最後に、陰陽師とは本来明治時代初頭まで存在した官職の名称であり、実際の職業名で申しますと現在では神職か拝み屋などに該当します。しかし本書では陰陽道に精通するものという意味であえて『陰陽師』と呼称しますのであしからず。”


 やっぱり雨の日は読書にかぎる。

 現在は3月半ば、すでに卒業式は終わり僕は晴れて自由の身だ。

 きっと世間の皆様は卒業式後のこの空白を友達と遊んだりして過ごすんだろうな。

 卒業旅行とか行っちゃったりしてな。

 はは、寂しくなんてない。

 大学生になったらきっと友達ができるんだ。

 しかしまさか陰陽師が官職名だったとは。

 じゃあ現代で陰陽師を名乗っている人はもぐりとか自称とかなのかな。

 いや、ほとんどが詐欺師かもしれない。

 そんなことを考えながら僕はページをめくる。

 

 ”それでは立派な陰陽師になるために一緒に修行していきましょう。まず、霊感のあるという人は一気に15ページまで飛んでください。霊感のないという人は次のページへ。”


 僕は次のページだな。

 またぺらりとページをめくる。


 ”このページから読む人は、まず霊力というものを認識する必要があります。眼を瞑り、深呼吸してリラックスしましょう。体勢はどういった風でも構いません。極端に言えばリラックスできるなら寝転がっても構いません。自分の内側に意識を集中し、へその下のあたりから沸きあがってくる力を感じましょう。”


 僕は壁に背中を預けて体の力を抜き、身体の内側に意識を集中してみた。

 うーん、なにも感じない。


 ”まあこれが一般的な修行法なのですが、きっと霊感のない皆さんには何も感じることはできないでしょう。ですが安心してください、晴明様式修行法によって必ず皆さんは霊感を開花させることができます。”


 書き方がいちいち怪しい商材みたいで胡散臭いんだよ。

 結論から書いてほしい。

 

 ”晴明様式修行法で大事なのは精神を徹底的に追い込むことです。極限状態にまで追い込まれた精神の中、自分の内面に目を向けたとき、そこに宿る霊力の光にきっと気づくことができるでしょう。”


 だからその方法を書け。


 ”そう、肝心なのはいかに精神を極限状態まで追い込むのかということ。しかしながら普通の人間にそこまで自分の精神を追い込むことができるでしょうか。あなたはそんな状況になったことがありますか?私はありません。”


 回りくどい言い回しがイラっとくる。


 ”人は無意識のうちに精神に多少の余裕をもたせて、精神が壊れてしまわないようにセーフティを設けて生活しています。精神に大きな負荷が掛かり、セーフティが外れるときは、ほとんどの場合そのまま精神が壊れてしまいます。晴明様式修行法では、精神が壊れないように極限状態にする方法、壊れる直前くらいになるちょうどいい修行法などを伝授していきたいと思います。”


 だからその方法を(ry。


 ”それでは皆様、晴明様式修行法で立派な陰陽師になりましょう。そして皆さんお待ちかね、その具体的な方法ですが、それは次のページをご覧ください。”


 僕は本を床に投げ捨てた。

 もう挫折しそうだ。

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