3.霊感の覚醒法
僕は別になんとしてでも陰陽師になりたいわけではないが、この本に書いてあるとおり読めばみんな陰陽師になれるならばなってみたい。
そしてあわよくば副業くらいになればいいとか思っている。
陰陽師って単価が高そうだよね。
そのためにも陰陽術を早く身に付けたいわけだけれど、この本の作者が回りくどい書き方や無駄な文章を多分に使っているためになかなか身のある部分にたどり着かない。
今やっと霊感覚醒法のその1『2日徹夜する』まで情報が出てきたところだ。
なにやらその4まであるらしいのだが、細かい字で15ページも書き綴ってあるせいでイライラする。
内容的には1項目1ページで十分だと思う。
11ページ分無駄なことばかりだ。
だけど読み飛ばすのは僕の流儀に反する。
しょうがなく我慢して読んだ。
大体朝から読み始めてお昼ご飯の前くらいには読めたけれど、本当にイラっとする文章だった。
怪しい商材とかは焦らして最終的に高い商材を買わせるという目的のために回りくどくて結局結論を言わない論法なのだと思うんだけど、この本の作者にはなんの目的もない。
この回りくどい文章を天然で書いているのだとしたら、この土御門秀親という人はいったいどんな人なんだろうか。
思考が逸れてしまったけれど肝心なのは霊感覚醒法の内容だ。
その1は2日2晩の不眠。
この時点で結構きつそうだ。
1日寝ずに学校に行ったことはあるけれど、あのときは授業中熟睡してしまった。
その2倍くらいは起きていないといけない。
辛いな。
そしてその2とその3は同時だ。
自分を鼓舞できるような音楽を聴きながらのマラソン。
それだけだったら休日の早朝などに皇居周辺でよく見られる光景だが、その前に2徹している。
地獄だろう。
だからこその自分を鼓舞する音楽なのかもしれない。
そして最後に50メートルクロールで泳ぐというものだ。
下手したら死ぬよ?
原文にはなんて書いてあったんだろうか。
音楽聴きながら走るとか、クロールとかは明らかに平安時代の陰陽師であったはずの安倍さんには書けない内容。
土御門氏のアレンジだろう。
これは晴明様式修行法というよりも秀親さん式修行法だ。
本当にこれで僕の霊感が覚醒するのだろうか。
霊感覚醒法を読んでから2日、一睡もしていない。
最高に眠い。
僕は騙されたと思って秀親さん式修行法の内容を実行してみることにしたのだ。
1日目の夜まではまだ余裕があった。
辛いのは2日目の昼からだ。
波のように押し寄せる眠気に負けるわけにはいかないので、僕はあまり身体を休めないようにしている。
少しでも身体の力を抜ける体勢になると、眠りたい欲求に負けそうになってしまう。
さらに血糖値を上げすぎないように食事にも気をつけないといけない。
人間の脳みそにはオレキシン作動性ニューロンという神経細胞があるそうだ。
その細胞がオレキシンという物質を刺激して活発化させ、生き物を睡眠状態から覚醒させる。
オレキシンという物質はなぜか食欲中枢に存在しているらしく、グルコース濃度(血糖値)が高くなるとオレキシン作動性ニューロンはオレキシンをあまり刺激しなくなる。
ゆえに人は食事をとって血糖値が上がると眠くなるのだ。
元々意思の強くない僕は自分の意思に頼ることの危うさを知っている。
なるべく自分の意思では眠れないような状況を作り出し、眠らないようにしている。
そして現在3日目の朝、やっと2日2晩の不眠状態が完了した。
あとは走って、泳ぐだけだ。
ダメだ死ぬわ。
自分を鼓舞させる音楽聴かなきゃ。
僕は音楽プレイヤーに入った今一番気分を上げてくれそうな曲を聴く。
レッ〇ゴー陰陽師だ。
これをエンドレスループにして僕は走り始めた。
不思議と心の奥底から力が漲ってくるような気がする。
気分的にはもう満身創痍なものの、体力的には家でずっと眠気をこらえてじっとしていただけなので問題ない。
脳内に分泌されるアドレナリンが一瞬だけ眠気を忘れさせてくれた。
自分の中にまだこんなに走るだけの力が残っていたことに驚く。
寝不足でぶるぶると震えていた足が、ぐっぐっと地面を掴んで身体を前に運んでくれている。
土御門氏が言うには、マラソンとクロール中はずっと自分の内面に目を向け続けないといけないらしい。
クロールに移行するまでに霊感が覚醒すればクロールはしなくてもいい。
クロールはマラソンで覚醒しなかったときのための最終手段らしい。
確かに陸上を走るマラソンと、水中を泳ぐクロールとではリスクが全然違う。
クロール中にもし足を攣ったり力尽きて泳げなくなれば、最悪の場合溺死もありうる。
できれば僕もマラソンで覚醒して欲しい。
20分ほど走ったあたりで、息が切れ始める。
日頃そんなに運動するほうではない僕は長距離走が苦手だ。
心臓の鼓動がうるさいくらいに早くなり、息が苦しくなる。
高校の時、体育の先生がマラソンの授業のたびに壁を越えればセカンドウィンドがどうだかで頑張って走れば楽になるとか言っていた記憶があるが、生憎生まれてこの方セカンドウィンドに至ったことがない。
今日はそのセカンドウィンドというのを経験できるまで頑張ってみよう。
眠気で目がしばしばする中で、身体だけはどんどん熱くなっていった。
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