【第二幕】狂襲に次ぐ強襲②
「クソモグラが。
肩ほどある赤髪を右側にまとめ、大きなつり
「警備兵のくせにさぁ、町をウロつくなんて泥棒より重罪だよねぇ、死刑死刑っ!」
もう一人は青い髪を左側にまとめていた。
顔立ちは異なれど、そのシルエットは鏡合わせのような二人組だ。
「せっかく町の外からの邪魔者
「マルテちゃん、やっぱママの言う通り、コイツらウジなんだよぉ。ツブすしかないって」
「警備兵?」
わたしは思わず、少女二人と動かなくなった男たちとを見比べる。
「こいつらは町の住民じゃないのか?」
「アァ? んなワケねーだろ。コイツら市民に化けた警備兵のモグラだよ。人んこと『貴様』呼ばわりしたり、偉そーな口調だし、ちょっと様子見りゃすぐ
赤髪の少女が当たり前のように断言する。
この町では警備兵と市民との
警備兵を特定するなり攻撃に及ぶとは。
「ていうか、アンタよそ者ぉ? 町の人間じゃないし……て、あー!」
青髪の少女が突然声を張り上げた。耳元の大声に赤髪の少女が顔をしかめる。
「んだよメルク、急にうるせー」
「マルテちゃんっ! コイツあれだよ、〈
「……んだと?」
赤髪の少女・マルテが
メルクと呼ばれた青髪の少女の声音が熱を帯び出す。
「〈リドー〉とかいう連中が賞金懸けて追い回して、勝手にこの町で暴れてんじゃん!」
「マジかよコイツが?」
マルテは
「いや待てってメルク、ママは賞金首の件はまだ手ぇ出すなって言ってたよな……」
「でもでもマルテちゃんっ、コイツが元凶なんだよ! ツブしておいた方がいいってぇ!」
「町で騒ぐよそ者なんて、全員敵だよぉ! アタシたち〈ガトス〉の出番じゃんかぁ!」
「……〈ガトス〉?」
わたしは耳に覚えのない単語をおうむ返しする。
「〈リドー〉とは別の組織なのか?」
すると二人の表情が同時に
マルテが赤髪の奥から
「テメ、〈ガトス〉を知らずにこの町ウロついてるってコトか……? ナメてんじゃん」
言われてようやく思い出す。
〈ガトス〉。横暴な政府に抗する、この町の市民が結成した組織名だ。
不知に失した。この町にはアイザックに会うため訪れたので、物騒な情報はさほど関心になかったのだ。
「のクセして〈リドー〉は知ってんのぉ? 失礼すぎぃー! 打ち首
少女たちの不機嫌な眼が殺気を帯びる。
だが正直わたしにとっては〈ガトス〉も〈リドー〉も同じくらいに知ったことではない集団だ。
わたしは早々に
「似たようなものだ」
「アァ?」「……ハ?」
わたしはだらりと下げていた両手の
「〈ガトス〉とかいうのも、この町のただのごろつき集団だろ」
途端、二人のこめかみに青筋が走った。髪型と同じく左右対称に。
「テメ……」「あ、コイツ殺そぉ」
ものの見事に二人はわたしの挑発に乗った。
こうなると大抵は複雑な戦法をとらない。
『ブチ殺してやるッッ!』
二人が唱和し、瞬時に精霊が
「!」
眼の前に
【火】と──【水】だ。
『ドタマに穴開けたらァアアア!』
荒々しい
最初に肌に触れたのは赤髪のマルテが放つ【火】だった。
銃弾にも勝る速さと勢いに〈
直後、鋭い衝撃が裂いた。
「っ!」
腕を引き後退する。だがわたしに追いすがったその
血とともに
青髪のメルクが切り裂く手応えに
これが警備兵の一人を切り刻んだ力の正体か。
たしかに水は圧を加えれば鉄すらも
殺傷能力という点では【火】に優るとも劣らない。
息を合わせ
両方の
広範囲に及ぶ水の
味方の【水】を
予想外の出方に動きを止める。と、
「
マルテがニヤリと
「っ!」
衝撃波に圧された
「刻みなぁ!」
青髪のメルクが高らかに叫ぶ。
次の瞬間、蒸気が
凶器と化した蒸気がようやく
二人の少女が得意げに笑っていた。
「はん、いい逃げ足してんじゃん、〈
「アタシらの〈
【火】と【水】
互いの精霊を相殺するどころか、切り刻むことに特化したメルクの【水】の攻撃性をマルテの【火】が絶妙な熱調整で蒸気にしている。
よほど二人の相性がいいのだろう。
──不意に脳裏を過ったのは、わたしの半身の存在だった。
わたしが生まれ育った少数民族・ワ族では、精霊制御の
つまり生来の自分の精霊と、半身たる相手の精霊、二つを保持できるのだ。
かつてわたしには、互いを自分の半身とし、互いを守るために『
同胞を守り
同胞とわたしを守り抜き、死してもわたしに加護を残し、そのおかげでわたしは〈
──亡くなった半身の精霊は、今はもうこの
相互を
だめだ、
──わたしは対う二人に意識を戻した。
相手の攻撃は【火】と【水】の合わせ技で生み出した蒸気。広範囲・全方位に及ぶ攻撃は、並みの回避では
ならば。
わたしは右腕を軽く振り下ろした。
「ハン、捨て身ってか?」
「今度こそ血ダルマだよぉ!」
少女二人が
各自の精霊がシンプルな突撃をかまそうと放たれるより先に──
わたしの拳から放たれた【火】が二人の精霊を弾き、その
「なァっ⁉」「んああ⁉」
ぎゃんっ、と悲鳴が重なり二人は路地の角まで転がる。
顔をしかめて
「──場所を考えろ。巻き添えで人の家まで破壊するつもりか」
背後の半壊した家屋だけでなく、周囲の建物も〈
次の一撃が辺りの
するとマルテが痛みにしかめていた顔を、
「ハァ? この町でケンカの巻き添えになるどんくせえ人間なんていねーよ」
「そうだよぉ、流れ弾でヒトに迷惑かけてんのはマヌケな警備兵だけだしぃ」
「第一、市民に危害を及ぼすなんてママの趣味じゃねーしな」
どこか誇らしげに言い放つ二人の眼はまだ
「っていうかぁ……ムカつくんだけどぉ! 何なのあれ……っ、早撃ちぃ⁉」
メルクが苛立たし気に睨み上げてきた。
たしかに、二人の精霊の
通常なら二人が放った精霊の力を
あれは早撃ちというより、
風の流れを読むことで、相手に
──たしかに半身亡き後は、彼女と分け合った精霊である【風】の
だが、〈
そうして風と親和することを覚えた【火】で二つの力を得た。
一つは、風を添えた【火】の「
そしてもう一つが──「先読み」。
【火】を
〈
(お前の【火】が
生前、わたしの半身がそう言ってくれた思いに
かつてわたしの元にあったものは失われ、決して取り戻せはしない。
それでも
「──オイコラ、黙ってんなよ〈
「聞いてんのぉこいつぅ⁉」
「やめておけ」
手の内を語る義理もないので、わたしは
「お前たちが
「……アア⁉ 調子乗ってんのか〈
「えっらそーにぃ……
「無理だ。
耳慣れぬものの
「んだとァ?」
「──もう殺すぅ!」
眼の色を変え先に攻撃を放ったのは、【水】──メルクの方だった。
わたしも彼女に向かって動いていた。
ともに
「うぅげっふ!」
「メルクッ!」
マルテが
「メルク……っ、……テメェ……〈
腹を抱えて
「丸焼きにしてやるよッッ!」
マルテの怒れる【火】が、
瞬発的な熱量にわたしは息を
「よせ──」
わたしの制止と、マルテの【火】の放出より先に。
まばゆい
石畳と砂壁を叩く衝撃と熱。
だがその火は辺りを燃やすことなくあっさりと消えた。
炎というより光に近い一撃だった。その場を制圧するための
「……!」
その鮮やかな【火】の気配には覚えがあった。
だが、この場所で、このタイミングで
そこに、頭上から声が落ちてきた。
「そんな狭いところで【火】なんてぶちまけたら、火事になっちゃうでしょうがっ!」
夜の暗さを弾くような明るい声が、
わたしは真上の住居
二つ結びの
小柄な
「ふっ」
彼女は赤毛を手でさっと跳ね上げると、銃口をこちらに向けた。
「賞金首騒動でこの町が大わらわって噂はホントだったのね! このあたしが引導を
渡してやるわっ!」
「──ローズリッケ」
わたしは
〈
〈
わたしの
彼女の出現に、なつかしさと不思議な
その銃口が、ぴたりとわたしに向けられたままだからだ。
「なにせ莫大な賞金がかかってるんだもん、乗るっきゃないわ!」
……?
「あんたがなんで賞金首になっちゃったのかはよくわかんないけど──とにかくお
覚悟しなさいゼロフィスカ!
あたし、たとえファンであろうと、悪いやつには
「………………お前もか」
再会を喜ぶ
朗々と敵対宣言をされ、わたしはげんなりと
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