第4話
「ねぇっ、亜美ちゃんっ?!もしかしてあれ、ワザとだったのっ?!」
「・・・・ワザとだったら、健太郎、あたしのこと嫌いになる?」
ウルウルとした上目遣いの亜美に、健太郎は小さく首を振る。
演技だとは分かっていたって、健太郎は亜美のこの目には滅法弱い。
「そんなわけ無いでしょ?ワザとだったら凄いなって思ったんだよ」
「だって、健太郎ガード硬すぎて、全然近づけなかったから」
「やっぱり、ワザとだったんだ?」
「うん」
テヘッと舌を出し、亜美は照れくさそうに笑った。
1年前。
健太郎のアパートまでスマホを取りに来た亜美は、その日健太郎のアパートに泊まったのだ。
帰りの電車が無い、というごくシンプルな理由で。
スマホのバッテリーが切れそうなことも、帰りの電車なんて無い時間になることも計算済み。
そしてもちろん、優しい健太郎が自宅に戻れず困る亜美を放り出すことなどしないということも、計算済みだったという。
どうにかして健太郎の連絡先を知りたい、二人きりで話すチャンスを掴みたいという、亜美なりの練りに練った計画だったらしい。
二人きりの部屋で健太郎は、亜美から『もう勘弁して!』というくらいの質問攻めにあった。亜美曰く、普段は自分のことをなかなか話さない健太郎から、できるだけ色々な情報を引き出したかったとのこと。
そんな亜美の質問攻めから逃れるべく、健太郎は亜美に、
『僕が一番好きな映画、いっしょに観ない?』
と提案し、仲良く肩を並べてシンデレラの映画を観た。
そして、その日を境に急速に距離を縮め、いくつかの出来事を経て、健太郎と亜美は、今の関係に至っている。
「健太郎。現実の女の子は、フワフワして可愛いだけじゃないんだよ?頭の中では、色々とあざといこともたくさん考えているものよ?女の子に夢ばっかり見てると、いつか騙されちゃうからね?」
「それ、亜美ちゃんが言う?」
「それもそっか」
エヘヘと笑う亜美を、健太郎は目を細めて優しい笑顔で見つめる。
あまり社交的ではなく引っ込み思案なところがある健太郎を、亜美はグイグイと知らない世界へ連れ出してくれる。
亜美と付き合い始めてから、健太郎の世界は驚くほどに広がった。
今では、亜美のいない世界など、健太郎には考えられない。
それほどまでに、健太郎にとって亜美は大切な存在になっていた。
「じゃあさ。ついでにもう一個、聞いてみる?」
「えっ・・・・亜美ちゃん、まだ他にも僕を騙してるの?!」
「違う違う、あたしじゃなくて」
愕然とする健太郎に、亜美は苦笑を浮かべながら、両手を大きく横に振る。
「シンデレラの話」
「えっ?」
「シンデレラっていうか・・・・魔女のおばさん?」
「フェアリーゴッドマザーね?」
「そうそう、それそれ」
不満げな顔の健太郎の訂正にもどこ吹く風と、亜美はケロリと笑った。
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