第3話

 ~1年前~


 大学のゼミの飲み会から自宅に戻った健太郎は、鞄の中からスマホを取り出そうとし、そこにふたつのスマホがあることに気づいた。

 ひとつは間違いなく自分のもの。

 だが、もうひとつは確実に、自分のものではないスマホだ。

 健太郎は、スマホの2台持ちはしていない。


「えっ?!これ、誰の・・・・?」


 それほど社交的ではない健太郎は、メッセージ交換などを積極的に行う方ではなく、それどころかいつでも


 今日はスマホ忘れちゃったから、また今度


などど、断る方が多い。

 故に、健太郎はこの日も、飲み会の席では鞄から自分のスマホを一度も出してはいなかった。

 だいたいが、他の人と共に過ごしている時間にスマホばかり見ている人は、健太郎にとっては苦手な部類の人なのだ。

 だから、健太郎は飲み会の席ではスマホは滅多に鞄から出すことはない。


「誰かが間違って、僕の鞄に入れちゃった・・・・?それとも」


 アルコールの酔いのせいで朧気ながらも、記憶を辿ってみれば、自分の鞄のすぐそばに落ちていたスマホを鞄から落ちてしまった自分のスマホだと思い、慌てて鞄に放り込んだ記憶が蘇る。


「もしかして僕、間違って誰かのスマホ持ってきちゃった・・・・?!」


 途方に暮れて、見慣れないスマホを手に持ったとたん。

『公衆電話』と表示されたそのスマホから、賑やかなメロディが流れ出した。


「わっ!・・・・どうしようっ?!」


 オロオロとしながらも、もしかしたら持ち主からかも?と思い直し、健太郎は恐る恐る応答のマークをタップする。


「もしもし」

 ”あれっ?川瀬君?”


 聞こえてきたのは、同じゼミで今日の飲み会にも参加していた、依田亜美の声。

 遅れてやって来て途中参加し、飲み会の定位置、端の席に座っていた健太郎のすぐ隣に座った人だ。

 それまではなんとなく見たことある人程度だったけれども、後からひとり遅れてきた亜美の顔は健太郎の記憶にもしっかりと残り、すぐ隣の席で自己紹介されたこともあって、名前もしっかりと記憶に残っている。


 ”よかったぁ、川瀬君が拾ってくれてたんだね、あたしのスマホ”

「いやっ、拾ったというか」

 ”ね、今どこ?もうお家だよね?今から取りに行くから、住所と川瀬君の電話番号教えて”

「えっ、えっ、今からっ?!」

 ”あたし、スマホ無いと困るの。それからそのスマホ、多分もうすぐ充電切れちゃうから、早くっ!”

「えっ?!あっ、あの、住所は・・・・」


 急かされるままに、健太郎は自分のアパートの住所とスマホの電話番号を告げる。


 ”ありがと!じゃ、今から”


 プツッと。

 唐突に電話は切れた。

 見れば、画面に表示されているのは充電切れのマーク。


「ほんとに、今からウチに来るの?この時間に?来たらもう、帰りの電車、無いけど」


 健太郎は、真っ黒になった画面に、ひとり呟いた。

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