第2話
「ねぇねぇ、健太郎」
「痛い痛いっ!なに、亜美ちゃん?」
突然両頬を摘まれ、痛さに顔をしかめながら目を開けて、健太郎は亜美を見る。
「シンデレラのガラスの靴はさ、何で脱げちゃったんだろうね?」
亜美の問いに一瞬眉を潜めたものの、健太郎はすぐに答える。
「急いで走ってたからでしょ」
健太郎は目で言外に、『今更何を言っているのさ』と亜美に伝えたつもりだった。
けれども、そんな健太郎の反応をあっさりスルーし、亜美は空とぼけた顔でこう返してきた。
「そっかぁ。えー、でもさ、シンデレラって王子様とダンス踊ってたよねぇ?ダンスのステップって、優雅そうに見えるけど結構動き激しいんだよ?そんな、急いで走って脱げちゃうくらいの靴なら、ダンスの途中でも脱げちゃうんじゃない?」
亜美の言葉に、健太郎はパチパチと瞬きを繰り返し、う~ん、と唸りながら斜め上を見上げて思考を巡らせていたが、やがてその目を疑わしそうに細めて亜美を見る。
亜美のことだ。
また、自分を揶揄おうとしているに違いないと。
「亜美ちゃん?何が言いたいの?」
「さぁ?なんでしょう?」
「意地悪しないで教えてよー」
「怒らない?」
「・・・・善処する」
思わず尖らせてしまった健太郎の口元を見た亜美の顔が綻ぶ。
これは、自分を困らせて喜んでいるときの亜美の顔だと気付き、健太郎は苦笑を浮かべる。
こんな些細なことでこんなに可愛い笑顔を見せてくれる亜美を、愛おしく思う自分を改めて自覚して。
「シンデレラは、わざと、ガラスの靴を置いて行ったんだよ」
「そんなはず」
「甘いな、健太郎」
否定の言葉を口にする健太郎を制し、亜美は続ける。
「気になる人に追いかけて貰いたい時の常套手段じゃない、こんなの。その人の前にわざと落とし物をする。キミも身に覚えがあるよね?」
「・・・・もしかして」
ぎょっとした顔で、健太郎が亜美を見る。
「アレ、ワザとだったのっ?!」
「さぁ?どうでしょう?」
驚きで目を見開く健太郎の前で、亜美がニヤリと笑った。
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