第5話
「フェアリーゴッドマザーは、シンデレラを助けてくれる心優しい魔法使いだよ?」
さすがに、そこにはなんの問題もないでしょ?
と、言外に匂わせる健太郎に、亜美は目を輝かせて囁く。
「健太郎。フェアリーゴッドマザーも、女、だよ?」
「まぁ、確かに男ではないけど。でも、女の子では」
「女の方が、女の子よりも経験を積んでいる分、遥かにあざといのよ?ねぇ、なんでフェアリーゴッドマザーは、わざわざ12時までしか効力のない魔法をシンデレラにかけたんだろうね?」
「・・・・えっ?」
「せめて舞踏会が終わるまでは効力が続く魔法をかけてあげても良かったと思わない?」
「それは・・・・」
「それに、12時過ぎてもガラスの靴だけ消えないなんて、都合良すぎでしょ。もしかしたら、靴だけ片方残すっていうのも、フェアリーゴッドマザーの入れ知恵だったりして?」
「う~ん・・・・」
腕を組み、頭をフル回転させて、健太郎は考えた。
正直そんなことなど、今までに一度だって考えた事はない。なぜならこれは童話であり、ザ・ファンタジーの物語なのだから。
けれども、亜美はどうやらかなりのリアリスト。
そんな亜美を満足させられそうな答えは思いつきそうもなく、早々に白旗を掲げて健太郎は亜美を見る。
「亜美ちゃんの答えは?」
「それはズバリ」
おどけた顔をして人差し指を立て、亜美は答えた。
「王子にシンデレラを追わせるため、だよ」
これも、恋愛においては鉄板だよ?
などと満足そうに笑い、亜美は続ける。
「まず、シンデレラはさ、遅れて舞踏会に登場するよね?最初からシンデレラに協力する気があるのなら、フェアリーゴッドマザーはさっさと現れて魔法をかけてあげれば良かったと思わない?舞踏会に間に合うように。ま、なんならさっさと意地悪な継母やら義姉なんか、魔法でチャチャッとやっつけてくれればいいのに、とも思うけど、それはこの際置いておくとして。遅刻って、結構失礼なことだよ?でも。これも、恋愛においては鉄板。特に、大勢のライバルが居る中ではね。遅れてくる子ってそれだけで、他の子よりも印象に残りやすいしさ。シンデレラみたいにもとから美人さんなら、なおさら」
確かに、と小さく頷きながら、健太郎はチラリと亜美を見る。
あの飲み会の日。
亜美がもし飲み会に遅れて来ていなかったら、もしかしたら亜美は、それほど健太郎の記憶には残っていなかったかもしれない。
「で。その『気になる彼女』とようやくダンスを踊れて、さぁこれから二人でゆっくりお話でも、っていうタイミングで彼女にいきなり去られちゃったら、さ。しかも、慌てて走って、だよ?そんなの王子様的にはどうしたって、余計に気になって追いかけたくなるじゃない。逃げられたら追いかけたくなるって、これ、男の本能みたいなもんでしょ?フェアリーゴッドマザーは間違いなく、これを狙ったわね」
「ねぇ、亜美ちゃん」
ジトッとした目で、健太郎が亜美を見る。
何故ならこれも、健太郎にとっては身に覚えのあることだったから。
「その技、僕にも使ったよね?」
「・・・・バレた?」
「もうっ!」
エヘヘと、悪びれた様子もなく、亜美は舌を出して笑っている。
「あの時僕、本当に心配したんだからねっ?!」
「だから、それはごめんて。まさか健太郎がそこまで心配してくれるなんて、思わなかったんだもん」
それは健太郎にとっては、今でも昨日の事のように鮮明なほど忘れられない出来事だった。
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