第2話
それは突然だった。
目の前に現れたその箱を持った<カノジョ>はボクに言った。
「あなたのやり方で世界を救ってください」
いいや。ボクにはそんな能力(ちから)はないし、
そんな才能もない。
凡才のボクはどこにでもいる平均的な人間で、
隣をすれ違っていくスーツ姿のサラリーマンのほうが
遥かにボクより優れていると思う。
ボクは立ち止まって<カノジョ>が持っている箱に目を落として
「何をすれば良いんですか?」
と、問いかけた。
<カノジョ>はどこかの怪しい宗教の勧誘かも知れないし
高いツボを売りつけてくるかもしれないし、
マルチの商材を渡してくるかもしれない。
そんな可能性でしかない想像をボクは頭(かぶり)を振って否定しようとして
<カノジョ>の返答を待った。
「はい。王様になって国を治めるのです」
「王様?」
「はい。この箱を開けると貴方は別の世界の国の王様になります。
そして、世界を救ってください」
「は?」
理解できないボクの頭を置いていき、
<カノジョ>は押し付けるように手に持った箱をボクに渡す。
唖然とするボクを傍目に、
まばたきをした次の瞬間にはもうすでに<カノジョ>は居なかった。
それはボクが見た蜃気楼なのかと思ったが、
ボクの腕の中に抱え込まれた箱は現実のものだった。
「世界を? 救う?」
何しろ突然の問いかけで、説明を求めても結局納得の行く回答を得るどころか
ゴミのような何かを押し付けられて、<カノジョ>は消えていた。
街の喧騒は一層強くなっていく。
道の真ん中で立ち止まるボクを邪魔そうに避けていく通行人たち。
老若男女。幼子から老人まで。
ベビーカーを押す母親。杖を支えに歩くおじいさん。
黒塗りの高級車に乗り路肩に停めて警察に注意されているサングラスの男。
急ぐサラリーマンと膝上のスカートで太ももを強調する女子高校生。
街の真ん中で立ち止まっているのはボクだけ。
世界はボクを取り残して回っている。
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