第17話 へいちん、帰る②

 海の誘いを断って、急いで家に帰った。

 ちゃんと、「今日はタンシンフニンのお父さんが帰ってくるから」って断ったんだぞ。「ムリ!」って断ると、ナミちゃんが怒るんだ。言われた方はイヤな気持ちになるでしょって。……確かに、海に「ムリ!」って言われたら、しょんぼりした気持ちになる。

 家のドアを開けて玄関に入ったら、黒いが目に飛び込んできた。へいちんはに数日の荷物を詰めて帰ってくるんだ。

 へいちん、帰ってきたんだ‼

「おかえり、すーくん」

 へいちんだ!

「へいちんもおかえり!」

 わーい、へいちんだ‼

 すっごく嬉しい!

 やっぱり、家族はみんないっしょがいいな。

 ナミちゃんが「タンシンフニンなんていう制度、本当におかしい! 『子育て支援』っていうなら、まずタンシンフニン制度をやめて欲しいよ」と怒っていて、なんだかムズカシクてよく分かんなかったけど、とにかくおうちには家族全員いる方がいいっていうのはよく分かった。

 だって、へいちんいるだけで、家の空気が全然違うんだ。

 リビングに行くと、かっくんもいて、オレとかっくんはへいちんにまとわりついた。

「お土産あるよー ままどおるだよ。ココア味とふつうの」

「やったあ!」

 と、かっくんはさっそく食べている。

 オレはままどおるはあんまり好きじゃないから食べない。

「すーくんには酪王牛乳だ!」

「わーい!」

 さすがへいちん!

 オレはさっそく酪王牛乳をごくごく飲んだ。きんたろう牛乳もおいしいけど、郡山の酪王牛乳もおいしい。

「わたしもままどおる、食べようっと」

 ナミちゃんがパンダの姿のまま現れて(人間に戻っていなかった!)、ココア味のままどおるを食べた。

「コーヒー、淹れるね!」

 ナミちゃんは上機嫌で台所に行った。

 へいちんはにこにことそれを見ている。

「へいちん」

「何?」

「ナミちゃん、パンダなんだけど」

 オレはおそるおそる言ってみた。

「そうだね、ビックリだよ!」

 ……あんまビックリしているようには見えないんだけど。もしかして、ナミちゃんが人間に見えているのかなって思えるほど。

「俺がせっかく電話で教えてあげたのにさー」

 かっくんがままどおるをぼろぼろこぼしながら言う。

 あーあ、また。ナミちゃんが怒るよ。

「かっくん、またこぼしてー」

 へいちんが台ふきで、こぼれたままどおるをふきながら言う。

「かっくんの電話、何言ってるんだか、よく分からなかったんだよ。そもそも新幹線の中だったし」

「ちぇ。せっかく電話したのにさ!」

「パンダが! とか、ナミちゃんが! とか、なんだかよく聞こえなかったし、『家の中にパンダがいる!』って言われても、もし本当なら通報しなくちゃいけないし、知ってる? パンダは凶暴なんだぞ!」

 ……ああ、親子だ。かっくんと同じこと、言ってる。

 へいちんとかっくんは本当にそっくりだ。

 ぽっこりお腹の体型も似ているし、二人とも記憶力がいいし、それからうんこの時間がやたらと長いところもおんなじなんだ。

「でもさー、パンダなんだけど、ナミちゃんなんだよね」

 うんうんと、かっくんがうなずく。

 ナミちゃんはへいちんの分と自分の分のコーヒーを淹れて持って来た。それを見てかっくんが、「俺も俺も!」と言う。ナミちゃんは「牛乳たっぷり?」と、いつものように聞いて、かっくんは今日は「ううん、ブラックで!」と大人ぶって言った。ナミちゃんはかっくんのコーヒーも持って来た。オレは酪王牛乳をもう一杯入れた。

「すーくん、へいちんにも酪王牛乳、くれ!」

 へいちんはそう言って、半分飲んであったコーヒーのカップに酪王牛乳をどぼどぼ入れた。

「うまいなー、酪王牛乳!」

「いや、それ、コーヒー牛乳だから」

 と、オレはつっこむ。

「半分コーヒーでも、違いが分かるんだよ!」

 みんなで笑い合った。

 食卓テーブルのイスは、やっぱり空席がない方がいいね。

 

 

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