第16話 へいちん、帰る①
次の日、ナミちゃんは朝からすごくがんばってお片付けをしてお掃除をしていた。へいちんが帰って来るから、きれいにしておきたいんだって。ナミちゃんにとってへいちんはやっぱり特別なんだ。
かっくんは予定通り(?)学校を休むらしく、寝間着のままでいる。オレはジバニャンの服を来て、学校へ向かった。
「すーくん!」
いってきますをして家を出たら、かっくんに呼び止められた。
「何?」
「ちょっと来て!」
かっくんは玄関先からオレを呼んだ。めんどくさいなあ、と思いつつ戻った。
「あのさ、俺、今日へいちんに電話しとくね!」
「え?」
「だーかーらぁ! うちにパンダがいるってこと!」
「あ、うん」
「へいちん、いきなりパンダと会ったらびっくりするからさ、俺、先に教えてあげようと思って」
電話で話しても、信じてもらえないと思うんだけどなあ。「うそだぁ~」とか言いそう。
と、思ったけど、とりあえず「分かった!」と答えておいた。
かっくんは満面の笑みを浮かべつつ、「グッジョーブ!」と言いながら親指を立てた。
かっくんに「グッジョーブ!」のサインの親指を返しながら、かっくん、家にいるのが嬉しいんだろうなあ、と思った。
かっくんは、学校が嫌いだ。オレは行きたくない日がたまにあるくらいで、根本的には学校は楽しくて好きだ。でも、かっくんは、本当は学校には一日だって行きたくないんだ。オレはいい先生ばかりだったけど(ナミちゃんは「幸いなことに」と言っていた)、かっくんは先生のあたりが悪くて、いろいろと大変だったらしい。
……よく分からないけどさ(でも、ちょっと話を聞いただけでも、太田先生のことはキライになっちゃった)。
――野球ごっこのことはちょっぴり残念だけど、もういいや。
香月先生が真剣な顔で話してくれたことや、ジョーやひでの心配そうな顔を思い出していた。
うん、大丈夫!
……ところで、へいちん、やっぱりびっくりするよね、パンダのナミちゃんを見たら。
一瞬不安になったけど、「大丈夫だよ、だってへいちんだもん」というかっくんの言葉がよみがえり、なんとなく安心した気持ちになった。
かっくんは学校に行きたがらないし、オレには意地悪なことしてくるし優しくなくて、全然「お兄ちゃん」って感じじゃないけど、でも、かっくんが言うと「あ、そうかも」って思っちゃうんだ。
今日はかっくん、塾じゃないかな。家にいるかな。ケンカばっかりしちゃうけど、かっくんがいると、なんかほっとするんだ。学校から帰ったとき、かっくん、家にいるといいな。
今日はへいちんが帰ってくる日だし、かっくんとへいちんといっしょにゲームしたいな。
パンダのナミちゃんを思い浮かべて、また不安な気持ちが込み上げてきたけど、でもすぐにかっくんの言葉を思い出す。
「大丈夫だよ、だってへいちんだもん」
うん、大丈夫。
学校行ったら、コマ回すぞ!
オレはコマの入ったランドセルをカタカタ言わせて、学校への道を急いだ。
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