第15話 いい子のオレと鬼太郎のアンテナ⑥
「まあさ」
ナミちゃんはコーヒーを新しく淹れてきて、言った。オレは牛乳が好きだけど、ナミちゃんはコーヒーが好きだ。かっくんが「俺も飲む!」と言ったからナミちゃんは「牛乳たっぷり?」とか聞きながら、かっくんの分もコーヒーを淹れている。
「まあさ」とナミちゃんはもう一度言って、「悪い人間からは逃げるが勝ちだよ。……小学生だと、まだ分からないかもしれないけど、そういう人間は変わらないから」としみじみとした感じで言った。
「だよな!」
かっくんが明るく返す。
「悪い人間?」
オレはよく分からなくて聞き返す。
「うん。意地悪なひと。心の中が黒いひと」
「……うん」
トシは……そんなに、そこまで悪いってわけじゃないと思うけど、でも。
「すーくんの年齢だと、まだよく分からないかも。でも、高学年になると、なんだかすごく底意地の悪い子、出てくるから。気をつけて。あれ? おかしいなって思ったら、さっと離れるんだよ。それが一番いいの」
「そうだ、そうだ!」
かっくんが元気よく言って、
「そうだそうだって、……かっくんはなかなか離れることが出来なくて、すぐぶつかっていっていたんだよ。それで、大変だったんだから。覚えてないの?」
と、ナミちゃんが応えた。
「その経験をふまえて、今の俺があるんだよ」
かっくんはちょっと自慢気に言った。
「ふふ。……すーくんも、いろんなことを経験して、鬼太郎のアンテナ、みがいてね」
「鬼太郎のアンテナ? ゲゲゲの?」
「そう。鬼太郎は敵の妖怪がいたら、髪の毛がピーンと立つでしょ。あれだよ。あれの、苦手な人間探知バージョン。『あ、こいつヘンだ。逃げなきゃ!』ってすぐ分かるアンテナ。そういう相手がいたら、すぐにピーンとくるの。これ、大事だから」
「俺、あるぞ、それ!」
「いや、かっくんもまだまだだよ」
「そうかなあ」
「そうそう。でも、ずいぶんよくなったけどね。『黒い人間』ってより、『自分とは合わない人間』を探すアンテナって感じかな。人間はさ、合う合わないだからさ」
「そっか」
黒いとかはよく分からないけど、「自分と合わない」というのは、分かる気がする。
「まあさ、だからお前、コマを流行らせればいいんだよ、これからは。野球ごっこじゃなくてさ、コマ! みんなで競ったら楽しいよ、きっと!」
「そうだね、かっくん。よっしゃ! そうする‼」
オレはジョーやひでや、それから海の顔を思い浮かべた。
よし、どんなコマ持って行こうかな。よく回るコマがいいな、強いやつ!
「ねえねえ、すーくん」
ナミちゃんが、あの破れちゃった黒いズボンを持って来た。
「破れたとこ、つくろっておいたけど、……はく?」
「はくはく! ありがとーーーーー‼」
よっしゃ‼
明日はジバニャン着ていくぞ! パンツもくつしたも、妖怪ウォッチだ!
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