第14話 いい子のオレと鬼太郎のアンテナ⑤

「ところでさ、すーくん」

「何?」

 食後の牛乳を飲んでいるときに、ナミちゃんは言った。

 オレは牛乳が大好きだ。

 パンを食べるときはもちろん牛乳を飲む。そして、ごはんを食べるときも牛乳だ。食事の合間も食後も牛乳を飲むってわけ。大好きなきんたろう牛乳を一日一本は飲んでいる。つまり、一日一リットル!

 ナミちゃんはコーヒーを飲みながら、続けて言った。

「今日、香月先生と話したの?」

「……あ……うん」

 なんか、気持ちがしゅんってしぼんだ。

「どうだったの?」

「うん」

「ちゃんと話したの?」

「うん」

「『うん』じゃ、分からないんだけど、どうだったの?」

「うん」

「『うん』じゃ、分からないって言っているでしょう!」

 ヤバイ。

 ナミちゃん、ちょっとイライラモード、入ってきた。

 だって、でも、ナミちゃん、オレ。

 ……うまく言えないんだよ。すっきり解決したわけじゃないし。

「もういいんだよ!」

「もういいって?」

「もういいったら、もういいの!」

「もういいの?」

「うん、オレさ、野球ごっこ、やめることにしたから」

「ふーん」

 納得していない「ふーん」だ。

 野球ごっこの話をしたくないオレは、話題を変えることにした。

「でさ、オレ、明日、コマ持って行くね!」

「コマ?」

「うん。日本の昔遊びをするんだって。木ゴマはもらえるらしいけど、オレ、カンゴマ持って行きたい!」

 コマは好きな遊び。木で出来たコマと鉄で出来たコマと、回り方が違っておもしろいんだ。

「分かった。押し入れに入っていると思うよ」

「ありがと! 後で探すね。好きなの、持って行っていい?」

「うん、いいよ。それで……野球ごっこのことは、……もういいの?」

「うん、いいんだよ」

 話がまた野球ごっこに戻り、また気持ちがしゅんとしてしまう。すると、

「話し合い、うざいよなっ」

と、めずらしく黙って話を聞いていたかっくんが、とうとう口をはさんできた。

「うん、話し合い、うざい」

 ちょうどいい、と思ってそう返す。

「だってさ、いろいろ話したって、結局あんま変わらないことが多いしさ。たいてい、双方『ごめんなさい』言わされて終わるだけだもん。『ごめんなさい』言い合えばいいってもんじゃないんだよ」

「うん、そうそう!」

 かっくんの意見に強くうなずく。

 まあ、オレの場合、「ごめんなさい」言い合うとかでもないけどさ。あんま何も変わらないってのは、そうだと思う。

 たくさん人がいると、自分の意見は通りにくい。

 そして、「みんな」がいいって思っていることは、だいたい変えられないんだ。その場合、引くしかないんだよ。他には方法はない。だからオレは野球ごっこはやめるんだ。

「俺もさ、青木のこと、先生に言って話し合いとかするの、嫌だったんだよ。だって、アイツ前にも同じことして、話し合って、ちゃんと『ごめんなさい』って言い合ったんだよ。でも、またするんだ。そんで、先生の前では、すっげーいい子なの。先生はダマされてるね! 嘘言ってても、信じちゃうしさ。それに、アイツ、先生が見ている前では絶対にやらないんだ。うまいんだよ、立ち回りが。そんなヤツと『話し合い』って、ムダでしょ? 反省なんて、絶対にしないから。口では『ごめんなさい』って言っていても、絶対にそんなこと、思ってないから。だから俺、今日は帰って来ちゃったんだし、明日は学校休むんだ」

「うんうん」

 まあ、だから帰って来ちゃう、とか、明日休む、とかはともかく、かっくんの言うことはもっともだ、と思った。だてにオレより三年長く小学生やってない。小学生やるの、ほんとにタイヘンなんだよ。

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