第12話 いい子のオレと鬼太郎のアンテナ③

「ナミちゃん、なんでパンダになっちゃったの?」

 気づいたら、そう言っていた。

「うーん、なんでかなあ。気づいたら、パンダだったんだよね」

「……オレのせいかなあ」

「え?」

「……オレが悪い子だから、ナミちゃん、パンダになっちゃったのかなあ」

 あ。

 また、涙が出てきた。

 ナミちゃんがオレの頭をなでた。

「そうだよ! お前が悪い子だからだよっ」

 いつの間にかかっくんがそばにいて、そう怒鳴ってた。

「かっくん!」やめてとかなんとか、ナミちゃんが言いかけて、でも全部言う前にかっくんは言った。

「お前ばかだろ! パンダだって、ナミちゃんはナミちゃんなんだよ! ……そりゃ、最初は俺も『やべぇ、うちの中にパンダがいる! 通報しなくちゃ! いや、動物園に連絡か⁉ パンダは実は凶暴だし、どうしたらいいんだ? そもそも、しゃべるパンダなんてヤバイだろ⁉ 警察や動物園じゃなくて、どっかの研究施設の実験体行き⁉』とか思ったし、『パンダが家にいるって、それどうなの⁉』とも思ったけど、パンダだって、ナミちゃんはナミちゃんだったんだよ。変わらないんだよ。怒るし、心配性だし、やっぱりナミちゃんなんだ。おいしいごはん作ってくれるし、俺たちのこと、ちゃんと思ってくれている。お前は悪い子かもしれないけど、別にいいじゃん。どうしてずっといい子でいなくちゃいけないんだよ。悪い子でも、お前はお前だろ? ずっといい子の方がヘンじゃんか。気持ち悪いんだよ、そんなの。悪い子のどこがいけないんだよ。悪い子だからお母さんがパンダになっちゃったって、そんなわけねーだろ、ばー----か」

「かっくん……」

「だいたい、お前はさ、外でいい子のツラしすぎるんだよ。俺はさ、がまんしてないぞ。イヤなときにすぐイヤだって言ってるんだ。がまんばっかりしていると、お腹がぐるぐるしちゃうんだぞ」

 あ。

 オレはお腹をさすった。

「俺はイヤなことがあったら、すぐにイヤだって主張するんだぞ! いつでもどこでもな!」

 えへん、とばかりにかっくんは胸を張った。

 いや、いつでもどこでもすぐに主張するってのは、ちょっとどうなんだよ、それ。威張ること?

 何か、ちょっと笑えてきた。

「俺はなあ、明日、学校行かないぞ。なんでかっていうと、今日青木に悪口言われて、とにかくイヤだからなんだ」

 悪口⁉

 それくらいで?

「あ、お前、いま、『それくらいで?』って思っただろ」

 うん。

「でも、俺はイヤなんだよ。あいつ、あることないこと、俺の悪口言いふらしてんだぞ。そういうの、がまんしたくないんだ」

 いつの間にか、ナミちゃんがかっくんの頭をなでていた。

「お前、『外面そとづらよしくん』だからなあ」

「それがすーくんだからね。『外面そとづらよしくん』だと、わたしは楽だけど。別にやめてもいいんだよ」

 うん。

「でも、『外面そとづらよしくん』の方が、すーくんが楽だったら、『外面そとづらよしくん』のままでいいんだよ。だけど、嫌なことがあったら、がまんしないで、うちでは爆発させたら?」

 うん。

「うちなら、爆発させても、すーくんのこと、嫌いになったりしないよ?」

 うん。

「俺はうちでも外でも爆発させているからな! いつでもありのままだ‼ わっはっは」

「かっくんは……外ではもう少し抑えてもいいんじゃない?」

「俺は俺なりに苦労してんだよ」

 かっくんの苦労は分からないけれど、……なんか、ちょっと安心した。

 そうか。爆発してもいいんだ。

「すーくんはすーくんのままでいいんだよ。いい子でも悪い子でも、すーくんはかわいいすーくんなんだよ。大好きだよ。変わらないよ」

「俺は? 俺は?」

「かっくんも、どんなかっくんでも大好きだよ」

「よかったー! ときどき、心配になっちゃうんだよね」

 そう言って、かっくんはナミちゃんに頭をなでてもらっている。

 かっくんは甘えん坊さんだ。

「お前さー、ナミちゃんなんて、パンダでもナミちゃんなんだぞ。だから、お前もそのままでいいんだよ」

 そして、かっくんはときどきやさしい。

「じゃあ、今日のごはんはロコモコ丼にしようね!」

「やったぁ!」

「わーい!」

 オレとかっくんは同時に言う。

 ロコモコ丼はオレもかっくんも大好きなメニューだ。ふわふわハンバーグの上に目玉焼きがのっかってて、すっごくおいしいんだ。オレはソースたっぷりのが好き。ごはんにもかけてもらうんだ。

 

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