第4話 ある朝起きたら④

 海と二人で校庭でゲームをした。

 海は、「なんで今日、すーくんちで遊べないの?」とか言わなかった。オレもナミちゃんがパンダになっちゃった話をしなかった。スマブラを心ゆくまで楽しんだ。

 スマブラは大乱闘スマッシュブラザーズのこと。なんで楽しいかっていうと、キャラクターを集めて戦ったり、スピリットを集めてキャラクターを強くしたり、キャラくらーを作ったりすることも出来るからなんだ。オレは最近自動でキャラクターが選ばれるのにしている。そうじゃないときはピカチュウを使っている。海はリドリーを使っている。オレと海とでは、オレの方が強い、とオレは思っている。でも、海は自分の方が強いって思っているかも。

 ゲームはやっぱり友だちとやるのがおもしろい。海といっしょに出来て楽しかった。


 そしてそしてそして!

 帰り道、オレはすごいものを見ちゃったんだ!

 家に帰るとすぐに、オレは興奮してナミちゃんがパンダであることも忘れて、急いで言った。

「ナミちゃん、オレ、今日すごいもの見ちゃったんだ!」

「なあに?」

「あのね、そらしゃ、見たの!」

「そらしゃ?」

「うん、そらしゃ!」

「どこで?」

「学校の近くの交差点のところで」

「……そらしゃ」

「うん、そらしゃ! そらしゃ、あんまり見ないんだよ。すごいよね」

 ナミちゃんはパンダの顔で「そらしゃ、そらしゃ」とブツブツつぶやいている。なんだよ。せっかくすごい話なのに。「すごいねー!」って言って欲しいのに。

 横からかっくんが言う。

「くうしゃ」

 そして、ナミちゃんとオレが同時に言う。

「くうしゃ」「くうしゃ?」

「そう。空の車と書いて、空車。『空』を『そら』と訓読みすると、確かに『そらしゃ』だね。タクシー見たんだよ、すーくん」

「あ! なるほど! かっくんは賢いねえ」

 ナミちゃんは称賛の目でかっくんを見る。

「すーくん、空車ってね、お客さんが乗っていないタクシーのことだよ。お客さんを待っているタクシーのこと。そらの車じゃなくて、お客さんが乗っていない、からの車なんだよ」

「ばー------か。そらしゃ、だって! くうしゃに決まってんだろ。一年生で習う漢字だぞ。ぷっ」

 かっくんはにやにや笑いながら、完全にオレをバカにしている。

「もういい‼」

 オレは床をどんって蹴って、すごい音を立てながら二階へ上がって行った。

 なんだよなんだよなんだよ!

 せっかくすごいものを見たって思ったのに! そらしゃなんて、なんか幸せな気分になれて、いい感じだったのに! せっかく教えてあげたのに!

 海と遊んで楽しかった気持ちもダイナシだよ!

 バカバカバカ‼ かっくんのバカ!

 ナミちゃんだって、ナミちゃだって、いつもみたいに「すーくん、すごいねえ」ってどうして言ってくれないんだよ! ひどいよ!

 ……なんでパンダなんだよ!

 かっくんはナミちゃんがパンダでも全然気にしてないみたいで、オレだけが悩んでいて、ほんとうにバカみたいだ。ひどいひどいひどい‼

 へいちんだって、遠くで一人でいて、オレの大変さなんて、全然知らないんだ。ひどいひどい!

 みんな、ひどい‼

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