第3話 ある朝起きたら③
「じゃあ、あとで校庭で!」
「うん、あとでね!」
学校帰り、海と別れて家に向かった。足取りは重い。
ナミちゃん、人間に戻ってないかなあ……
タメ息をついて、自分んちのピンポンを押す。
「はーい、ちょっと待っててー」という声が聞こえる。
ナミちゃんが人間に戻っていますように!
カギの開く音がして、オレは祈るような気持ちでドアを開けた。
「すーくん、おかえりなさい」
あー-------ー-------------あ。
ナミちゃんはやっぱりパンダのままだった。
そしていつものエプロンをつけている、パンダの体に。
「すーくん、今日、学校、どうだった?」
いつものナミちゃんみたいに、パンダのナミちゃんは聞く。
「フツー」
つい、ぶっきらぼうに言ってしまう。なるべくパンダのナミちゃんを見ないようにして。
「普通って何? 楽しかった? ……嫌なことでもあったの?」
パンダのナミちゃんは少し心配そうな顔をする。
パンダの顔なんだけど、心配してるって分かってしまう。
ナミちゃんは心配性だ。
自分と離れている間、学校でツライ思いをしていないか、いつも心配している。
「ダイジョーブ‼ イヤなことなんてないから。いつもと同じで楽しかったよ」
オレは乱暴にランドセルを置きながら言う。
「かっくんは?」
「かっくんはまだ帰ってきてないよ」
そうだ。五年生と二年生とでは、下校時間が違うんだった。かっくんとはケンカばかりするんだけど、かっくんがいた方が楽しい。かっくんがいると、なんかほっとするし。
「……かっくん、今日、学校……どうだったかな?」
ナミちゃんがヒトリゴトのようにつぶやく。
「昼休み、オレ見たよ。なんか誰かとボールで遊んでた」
「そう」
かっくんは空気が読めない宇宙人だから、学校でちょっと浮いているみたいだ。そして、だからナミちゃんは俺たちの学校生活をついつい心配してしまうんだ。
でも、ナミちゃん。
オレたちはけっこう大丈夫だよ。
かっくんは学校での嫌なことを大げさに言うけれど、あれはナミちゃんに心配してほしいからなんだと、オレは思ってる。そしてオレは学校であった嫌なことは言わないようにしているんだよ。
ナミちゃんを心配させたくないから。
ねえ、ナミちゃん。
かっくんは意外と(?)友だちには好かれていて、楽しく過ごしているとオレは思うよ。まあ、教室にいないこともちょくちょくあるみたいだけどさ。
それにオレは大丈夫。
海がいるし、ジョーもひでもいるし。
香月先生は楽しいし。
「すーくん、今日のご予定は?」
「今日は海と遊ぶ」
「うちで?」
「う、……ううん、今日は学校行く」
「そう」
「カセットはスマブラだけにするよ。あとはダウンロードしたので遊ぶ」
「なくさないのよ」
「うん!」
「宿題して、明日の時間割そろえてからね」
「えー、帰ってからじゃ、だめ?」
「だめ」
ナミちゃんはぜったい許してくれない。帰ってからでも出来るのにな。
ちぇ。
パンダのナミちゃんがコワイから、オレはリビングの食卓テーブルで宿題をやった。今日は漢字だ。
「あれ? 一回書けばいいんじゃないの?」
「明日、漢字のテストがあるから、二回書くんだよ。百点とりたいもん」
「へえ」
「みんなも二回やってるよ」
「そうなの?」
「うん」
テストで百点をとると、金ぴかシールを貼れる。十回連続百点をとると、ドラえもんシールだ。それが欲しくて、みんな頑張っている。……香月先生にほめられたらうれしいっていうのが一番かもしれないけど。百点とると、すごくほめてくれるんだ。
「らいおんの花マルなんだね」
漢字ノートをぱらぱらとみて、ナミちゃんが言う。
「うん、そう!」
香月先生は頑張った宿題にはらいおんの花マルをかいてくれる。これも嬉しい。
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