24.弟の役目

「はぁ~……」


 姉上への説教を済ませ、用意された部屋に戻った僕は、ソファーに腰を預けて大きなため息を吐く。

 ……頭が痛い。頭を押さえてみるが、余計に痛むだけで無意味だったのですぐに止めた。

 もちろん、この頭痛の原因は分かっている。

 先程説教をした相手……姉上だ。

 

 昨日、アンデルソン子爵領の森にいると思われる幻獣の調査をする為に、姉上は森に行ってしまった。

 王家の血を引き、王女でもある姉上が危険な調査に直接出向くのは、僕もアンデルソン子爵も勿論反対だった。

 でも、姉上の強い説得に僕もアンデルソン子爵も折れてしまい、最終的には許可を出してしまった。

 

「……それが、どうしたらこうなるんだ……?」


 調査だけのはずだったのに姉上は一日経っても戻って来ず、慌てて調査隊を編成していたら、突然何でもない顔をして帰って来た。

 かと思ったら、『密猟者』を捕まえたと言ってきた上に、何故か『森の精霊』と『妖精』というのも引き連れていたのだ。

 話を聞けば、調査中に妖精を密猟者から助けて幻獣と遭遇し、精霊から幻獣の討伐をお願いされて幻獣を討伐していたと言う。

 

 ……正直、話を聞いた時は自分の耳を疑った。

 いくら姉上が破天荒だと言っても、調査に行っただけでここまで常識外れな結果を持って帰って来るなんて、一体誰に予想ができるだろうか……?

 でも姉上の説明に出てきた精霊と妖精を実際に連れて来て、本人達から同じ説明を聞かされれば嫌でも信じる他にない。


「……まあ、姉上の破天荒さは今に始まったことじゃないし、ある意味それが姉上の魅力でもあるんだけど」


 それに、姉上のした事が悪かったというわけではない。

 むしろ姉上のした事は、称賛に値する大活躍だった。

 

 政治的な話にあまり興味の無い姉上はまだ知らないけど、実はアンデルソン子爵は森で頻発する『密猟』の対処に頭を抱えていた。

 密猟者の手は巧妙で、密猟の痕跡は残しても、自分達に繋がる証拠は決して残さなかったそうだ。

 動物園を作り動物の保護を始めたのも対策の一環だったそうだけど、思ったような結果は得られなかったらしい。

 そして幻獣の出現で、事態はより深刻なものになってしまった……。

 アンデルソン子爵が王家に支援を求めたのは、幻獣以外にも密猟者の排除も目的としていたからなのだ。

 そして内密に進めたいと言っていたのは、密猟者達に情報が漏れてしまう事を避ける為だった。


 しかし姉上はそんな状況を知らないまま、アンデルソン子爵の悩みの種だった『密漁』『幻獣』の問題を一気に解決し、更にアンデルソン子爵も知らない間に森に棲んでいたという精霊を助けて恩を売り、友好的な関係を築いたてみせたのだ。

 こんなこと、他の誰にも真似することは出来ない。いや、真似出来る訳がない。

 心配を掛けた事を怒りはすれど、この姉上の多大なる功績を咎めることが一体誰に出来ようか!

 

「そう、まさに“英雄”。姉上こそ、そう呼ばれるに相応しい存在だ!」


 ……まあそのお陰で、僕とアンデルソン子爵が諸々の対処や処理をしなければいけなくなって、頭が痛くなる原因になったけどね。

 だけど姉上の功績と労力に比べれば、僕とアンデルソン子爵の頭痛なんて軽い物だ。


「……おっと、こうしてはいられない。忘れないうちに姉上の活躍を記録しておかないと!」


 僕は頭痛を無視してソファーから飛び上がると、鞄からメモ帳を取り出して急いで筆を走らせる。

 記載する内容はもちろん、今回の姉上の活躍だ。

 僕は姉上やニンフさんから聞いた話を、一語一句洩らすことなく、全てをメモ帳に記載していく。

 

 このメモ帳には、今までの姉上の活躍の全てを記載している。

 因みにこのメモ帳は三冊目だ。

 僕はいずれ、姉上の活躍をまとめた本を作ろうと思っている。

 このメモ帳はその時の為の資料になる。

 

 姉上は普段からの行動の結果、『常識破りの破天荒』と陰で言われている。

 もちろん姉上も自分がそう言われているのを知っていて、「私は国王には相応しくない」と言って自分から王位継承権を捨てた。

 確かに姉上がすること成すことは、僕達の想像を遥かに超えてくる事ばかりだった。総合的に見てそれが王族に相応しいかと言われれば、そうでないのは確かだ。

 ……だけど、それこそが姉上の最大の魅力であり個性なんだ!

 いくら王族に相応しくなくても、その行動が起こした結果は多くの国民の命を救う事に繋がったのが事実なのは変わりない。


「そうだ。姉上こそが歴代の王族の誰よりも、王族としての責務を果たしているんだ!」


 権力者の汚点や美点を主観で語る歴史家達は、きっと姉上の活躍よりも破天荒な行動を突出して記し、僕が国王になって成したことをそれよちも大きく取り上げる事だろう。

 このままでは、姉上が歴史の影に消えてしまう。僕よりも姉上が歴史に名を大きく残すべき偉大なる人物なんだ!

 だったら歴史家達が何を書こうと、僕がそれを上回る情報の正確さで姉上の活躍を残せばいい。

 僕は姉上の弟として、そのメッセンジャーとならなければいけないんだ!

 それが、姉上の弟である僕の役目なのだから。

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