23.帰還

「ありがとうございました。カリス、ヤスツナ。あなた達の尽力のおかげで、この森の脅威を排除することが出来ました!」


 ニンフは深々と頭を下げて私達に感謝してくる。


「お礼はよしてニンフ。どちらにしても、森で暴れていた幻獣の正体がキメラだと判明したら、討伐することに変わりはなかったのだから」

 

 シアにも言ったように、キメラ相手の対処法は倒す以外に方法がない。

 ニンフにお願いをされなくても、幻獣の正体がキメラだと判明した時点で、私は討伐の決定を下していただろう。


「ふふ、例えそうだったとしても、カリスがこうして私に手を貸してくれたことは事実です。そしてその結果、この森にこれ以上の被害を出さずに済みました。それは私があなた方に深く感謝する理由としては十分です」


 確かに、ニンフのお願いを聞いてすぐに行動したからこそ、キメラを最短で討伐できたとも言える。

 もし私がニンフと出会わず街に戻って対策をしていたら、その間にキメラは更なる被害を森に与えていただろう。……もしかしたら、ニンフも命の危機に晒されていたかもしれない。

 そうなっていたかもしれない未来を考えれば、ニンフにとって私とヤスツナは命の恩人、とも言えるのかもしれない。


「それで、できれば何かお礼をさせて頂けないかしら?」


 ニンフが突然そんなことを言い出した。


「お礼?」

「ええ。助けてもらったのに、その感謝が言葉だけと言うのは、私の気が収まりません。しっかりとした感謝をお礼としてカリスに渡したいのです。何かありませんか、私が役に立つことが? 何でも構いませんよ?」


 ニンフが役に立つこと、か……一応、あるにはある。

 ニンフにしかできないことで、尚且つ私の役に立つことが。

 とりあえず他に願いも思い付かなかったので、私はニンフにそのお願いをすることにした。


「……それじゃあ、私達と一緒に街まで付いて来てくれないかしら?」

「街に、ですか? それは構いませんが、そんなことでいいのですか?」

「シシリーから聞いて、私達がこの森で暴れている幻獣の調査に来たことは知っているでしょう? 私これでも人間の国ではかなり偉い立場にある身でね。そんな私が何の音沙汰もなく一日以上街に戻らなかったから、きっと今頃みんな大騒ぎして心配していると思うの」


 多分、いやほぼ間違いなく、ルー君とアンデルソン子爵は今頃顔を青くしていることだろう。

 何しろ私が森へ行く事を容認したのは、他ならないこの二人だからだ。

 一日経っても私が街に戻ってこないのは既に把握しているだろうから、相当な心配していることは想像に難くない。

 そしてこのまま街に戻ったら、ルー君とアンデルソン子爵からの説教と質問責めが待っているだろう。

 心配させてしまったのは悪いと思うけど、キメラ討伐で疲れているのにそんなのに付き合いたくはない!


「多分このまま戻ったら、ルー君とアンデルソン子爵に説教と質問責めにされてしまうわ……。だからニンフには、私の代わりに二人に事情を説明してほしいのよ。もちろん精霊であるニンフがいることで、ここでの出来事を説明するのに十分な説得力を持たせる魂胆もあるわ」

「なるほど……人間社会の事はあまり詳しくありませんが、なんとなく理解しました。それでカリスの助けになるのなら、喜んで街へ一緒に行きましょう」

「ええ、十分助けになるわ! ありがとう!」


 よし、これで少しは面倒事が楽になるわね!

 正直に言うと、『アンチマジック』に沢山の魔力を込めた所為で、予想以上に体力と魔力を消耗してしまってもうフラフラだ。

 今はとにかく、早く汗を流して休みたい……。

 その時間をニンフが作ってくれるというなら、これ以上の助けはない!


「それじゃあ早速、街に戻りましょうか!」


 と、その前に、ニンフにお願いして討伐したキメラに結界を張ってもらう。

 キメラの死体は研究所に持ち帰ろうと思っているので、腐ったり、他の動物に死肉を漁られたりしたら困るのだ。

 一通りの腐敗処理と死体の保護を済ませた私達は、シア達が待つ破壊の跡地へと戻った。

 そしてシア達にキメラを無事に討伐したことを報告し、私達は街への帰路についた。


 街に戻ると、案の定の大騒ぎになった。

 どうやら一日経っても森から戻らなかった私達を心配したルー君とアンデルソン子爵によって大規模な捜索隊が編成されていたみたいで、街全体が異常な緊張に包まれていた。

 そしてその捜索隊が丁度これから出発しようとしたタイミングで私達が戻って来たものだから、騒ぎに更に拍車をかけることになってしまったようだ。


 密猟者達を捜索隊に引き渡した私達はすぐに子爵邸へと通され、血相を変えていたルー君とアンデルソン子爵に森での一連の顛末を報告した。

 報告を聞くにつれて、ルー君とアンデルソン子爵は二人揃って頭を抱えてしまう。

 ……まあ、私自身思い返してみても、とても情報量と内容の濃い話だ。すんなりと信じることは難しいだろう。

 そこでニンフの出番だ! 森に棲んでいる精霊で、キメラの被害者でもあり、私にキメラの討伐をお願いしてきた張本人だ。

 そのニンフ本人から事の顛末を説明されたなら、これ以上の説得力はないだろう。

 そして私の読み通り、事の顛末に対する質問責めの矛先はニンフの方へと向いてくれた。


「……それじゃあ、私は少し休ませてもらうわね」


 ニンフに質問が集中している今がチャンスだ。

 私は小声でそう言って、こっそり部屋を出ようとした。


「待ってください姉上」


 しかしルー君に引き留められてしまった……。


「な、何かしらルー君? お姉ちゃん疲れちゃったから、ちょっと休ませてくれると嬉しいなぁ~なんて……えへへ……」

「可愛さで誤魔化そうとしてもダメです! ……はぁ、休憩してからでいいので、あとで僕のところに来てください!」

「ルー君……!」


 どうやら説教は免れられないようだけど、何だかんだで優しいのがルー君の良いところだ!

 とりあえずルー君の機嫌が変わらない内に私はシアと一緒に用意された部屋へと戻り、軽く湯浴みをして汗を流してから、仮眠を取って身体を休めた。

 ベッドに横になってから意識が落ちるまでに、そう時間は掛からなかった。

 

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