22.VSキメラ3
「グルルガアアアアッ!!」
風魔法で切られた木に目を奪われていると、再びキメラが咆哮を上げて、長い牙に魔力が宿って光り始める。
そしてキメラが頭を振り、風魔法が放たれる。
「くッ!?」
私達は横に動いて風魔法を躱す。
そして私達の背後にあった木が真っ二つに切られ、ドシーンと大きな音を立てて倒れる。
ニンフから聞いた情報通り、キメラの放つ風魔法はとても強力だ。もし直撃でもしたら、背後の木と同じ末路を辿ることになるだろう……。
「グガアッ! グガアアッ!! グルガアアアッ!!!」
そんな風魔法を、キメラは次々と連続で放ってくる。
私とヤスツナは風魔法の軌道をしっかり見切りながら全て避けていく。
避けながらチラリと周囲を窺えば、ニンフの姿が無かった。
どうやら既に森と同化していて、キメラの攻撃が収まるタイミングを見計らっているようだ。
キメラの風魔法は速くて威力も凄まじいが、幸いなことに直線上にしか飛ばせないみたいで、落ち着いて見切れば十分に対処は可能だ。
だけど風魔法の飛んでくる間隔が短いので、迂闊にキメラに近付くことが出来ない。
「どうするヤスツナ? キメラの魔力が切れるのを狙う?」
風魔法を短い間隔で放つキメラに近付くのは困難だ。
だけどこれほど連続で魔法を放てば、どこかで必ず魔力切れを起こすはずだ。
それまでは避ける事に専念するも、現状としてはアリだと思う。
しかしヤスツナはあまり乗り気ではないようだ。
「悪くは無いですが、いつ切れるか分からない魔力を当てにしていては、こちらが先に疲れ果ててしまうかもしれませんじゃ。それにこうも動きっぱなしというのは、年寄りにはちと辛いものがありますじゃ……。もう少し労わって欲しいですな」
キメラの攻撃を避けつつ、腰を叩きながらそんな小言を漏らすヤスツナ。
思ったよりも余裕そうで、心配する必要も無さそうだ。
というより、ヤスツナは私の護衛という事を忘れているんじゃないだろうか?
しかしヤスツナの言う通り、いつ切れるか分からない魔力を頼りに動き続けるのは、肉体的にも精神的にも負荷が大き過ぎる。
……仕方ない。別の方法で攻めることにしよう。
「私が風魔法を何とかするわ! ヤスツナは私の後ろに続きなさい!」
「承知しましたぞ!」
風魔法の間隔が空いた僅かなタイミングで、私はキメラに向かって駆けて距離を詰める。
私の接近に気付いたキメラは、私だけに狙いを集中して風魔法を放ってくる。
触れる物を両断する強靭の風が弾幕となって迫って来る。全てを完全に避けきるのは至難の業だ。
ならば――。
「――避けるのが難しいなら、切り開くまでよ! 『
私は呪文を唱え、剣に魔法を付与する。魔法が付与された剣は、魔力を帯びて光り輝く。
私はその剣を、迫り来るキメラの風魔法に当てるように振るった。
するとキメラの風魔法は、私の剣に触れると同時に光の粒子となって消滅する。
私が剣に付与した魔法は『アンチマジック』。相手の魔法を打ち消す効果のある魔法だ。
基本的には対魔術師用に使われる魔法で、効果だけを聞けばかなり有用性の高い魔法と言えるだろう。
しかし、この魔法にはひとつだけ制限がある。
それは「『アンチマジック』を発動する際に消費した魔力以上の魔法は打ち消せない」というものだ。
つまり今、私がキメラの風魔法を打ち消せたのは、私が『アンチマジック』に込めた魔力がキメラの風魔法の魔力を上回っていたということだ。
まああれだけ連発で風魔法を放ってくれれば、込められた魔力量くらいは嫌でも分かるようになるというものだ。
「グガァ!?」
放った風魔法を全て搔き消して迫る私に驚いたキメラは慌てて距離を取ろうとする。
しかし脚を一本失ったキメラは素早く動くことが出来ない。
私はあっという間にキメラの懐に入り込む。
キメラそれを嫌う様に残った前脚で攻撃してくるが、私は体を捻ってそれを簡単に躱し、剣でキメラの側部を攻撃する。
「流石カリス様、儂も負けていられませんぞ!」
私の攻撃に続く様にヤスツナも、キメラの死角に飛び込んで斬撃を加える。
「グギャアアアア!?」
私達の斬撃を食らったキメラは叫び声を上げて体勢を崩す。
「今がチャンスよ!」
私の掛け声に合わせてニンフが姿を現し、体勢を崩したキメラを蔦でグルグル巻きに縛り上げる。
体勢を崩してダメージを負ったキメラに、ニンフの蔦の拘束から脱出する術は無い。
身動きが取れなくなったキメラを私とヤスツナの二人で、キメラの回復速度を上回る手数で攻撃する。
無抵抗の相手を袋叩きするようで可哀そうだけど、安全に倒せるチャンスがあってそれを活かさない方が愚かな選択だろう。
「はあああ!」
「ふんっ!」
「グオオオッ……」
ドッシーーン!
キメラは必死に藻掻いていたけど遂に力尽き、地面に崩れ落ちた。
「やりましたな!」
「ええ」
キメラは全身の切り傷から血を大量に流し、もはや虫の息だ。
傷が回復している気配も無い。どうやらもう回復する力残っていないようだ。
「……」
私は横たわるキメラにゆっくりと近付く。
キメラの虚ろな目には、近付く私の姿が反射して映っていた。
「グ……グ、ガァ…………」
空気が漏れるような小さな声だった。
痛みに苦しむ声なのか、それとも近付いて来るなという威嚇なのか、その小さな声からは判断できなかった。
「……ごめんなさい。今の私には、これしか方法が思いつかなかった。せめて最後は、苦しまない様にするから……」
私はぎゅっと剣を構え、繰り出せる全力の一太刀でキメラの首を刎ね落した。
「……終わりましたな」
「そうね……」
コロリと転がるキメラの頭を拾い上げ、身体の隣に持って行き丁寧に置いてあげる。
「安らかに眠りなさい。その魂に安息が在らんことを……」
私は膝を付いて両手を合わせ、キメラの魂に祈りをささげた。
ただの自己満足かもしれないけど、今はこれでキメラの魂が救われたという事を信じる他ない。
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