16.邂逅遭遇2
「それじゃあ私達はもう行くわ。シシリーも気を付けるのよ」
「あー、うん……」
シシリーにお別れを言うが、シシリーは何処か歯切れが悪い様子だった。
不思議に思ってしばらく待っていると、シシリーはゆっくりと口を開いた。
「……ねえカリス。カリス達はこの森で暴れてる幻獣の調査に来たんでしょう? その幻獣をどうするつもりなの?」
「まだどんな幻獣が分からないから決めてはいないけど、今のところは捕獲か討伐で考えているわ」
「捕獲? どうして捕獲するの? あれだけ暴れる奴なんて危険だから倒した方がいいんじゃないの?」
シシリーの意見は
これまで集めた情報から考えても、この森で暴れている幻獣の危険度は極めて高い。
シシリーの言う通り、討伐してしまう方がベストだろう。
……でも、私の夢は『幻獣との共存』だ。
この森で暴れている幻獣の正体も、暴れている理由もまだ分かってない。
だけどもし、共存の可能性が少しでもあるのなら、私はその可能性を最後まで捨てたくはない!
我儘かもしれないけど、これが私を私たらしめる矜持だ。譲ることは出来ない!
私はシシリーにそんな強い想いを込めて、私の夢を語った。
「幻獣との、共存……素敵ね。うん、素敵だと思うわ!」
私の夢を聞いたシシリーは目を輝かせて私の顔の周りを飛び回る。
どうやら共感してくれたようで、私も嬉しい気持ちになる。
シシリーは一通り飛び回るとピタッと私の正面で停止して、私を真剣な目で見つめる。
「正直に言うとね、私、今の生活に飽きていたの。勿論この森での暮らしは素敵だし、友達も沢山いるから嫌だなんて言うつもりはないわ! だけど、私はまだこの森の外の世界を知らない。今日カリスに出会って、改めてそう思ったの。この森の外には、この森よりももっと大きな世界が広がっているのは、友達たちから聞いて知ったわ。……正直、そんな世界を見て来た友達たちが羨ましかった」
「つまり、シシリーは外の世界、森の外に出たいの?」
「そうよ! 友達たちが見て来て、私が見に行けないなんて不公平だわ!」
シシリーは頬を膨らませながら、溜まっていた不満を吐き出す。
よっぽど見に行けないことが悔しかったようだ。
「……でも同時に、私の様な存在には厳しい世界だというのも知ったわ。森の外の世界の殆どは“人間達”が暮らす世界で、私の様な存在は人間達からどんな扱いを受けるか分からないから危険だって、そう強く釘を刺されたの。……実際、それは本当だったわ。私を捕まえたあいつ等は私の事を汚い目で見下していたし、私の事をどうするかって話しをしている時の言葉がとても怖かった……。人間達は、私の様な存在を、こんな風に扱うんだって……」
「シシリー……」
……正直、シシリーにとって初めての人間との邂逅は、最悪なものだったと言わざるを得ない。
捕まった時の事を思い出して、震える体を抱きしめる様に抑えている姿がその何よりの証拠だ。
私はシシリーに何も言葉を掛けることが出来なかった。
「……でも、そんな私をカリスが助けてくれた。カリスはあいつ等と同じ人間だけど、全く違う想いを持って私の様な存在の事を考えてくれている。カリスの様な人間もいるんだって、知ることが出来て良かったわ」
「そう言ってくれるとありがたいわ。……でも、私と同じ考えをしている人間は全体のかなり少数よ」
「でもそれを、これからカリスが変えていくんでしょ?」
「ええ、それが私の夢だもの!」
私は即答した。それ以外の答えは無いから当然だ。
シシリーは私の言葉に顔を
それはまるで、何か憑き物が落ちたかのような顔だった。
「ねえカリス、だったらひとつお願いしてもいいかしら?」
「お願い?」
「あのね、この森で暴れている幻獣の事が片付いたら、もう一度私に会いに来て欲しいの」
「えっ、そんなことでいいの?」
「うん。だってまだカリスに助けてもらったお礼ができてないもの。……だけど残念なことに、今は何も用意できないわ。だからカリスの用事が終わった時に、改めて私にお礼をさせてくれないかしら? それまでには用意できると思うから!」
どんなお願いをされるのかと思ったら、予想外にも普通なお願いでビックリした。
勿論、私にそれを断る理由は無い。
むしろ、妖精という未接触の種族だった幻獣から感謝のお礼を貰えるなんて、そんなこと……飛び跳ねるくらいに嬉しいに決まっている!
「分かった。必ず会いに行くわ! お礼、楽しみにしておくわね!」
「ふふふ、任せてちょうだい!」
こうして私は問題が片付いた後にシシリーと再会する約束を交わした。
どんなお礼を用意してくれるのか、今から楽しみで仕方がない。
(これは、早くこの問題を解決しないといけないわね!)
幻獣問題解決に向けて、気持ちに更に気合が入る。
だけどそこでふと、私にある疑問が浮かんだ。
「あっ、でも、どうやってシシリーに会えばいいのかしら……?」
この森はとても広い。
土地勘のない私だと、アモンの様な案内役がいないと遭難確定だ。
それに例え案内役がいても、案内役がシシリーの暮らしている場所を知っているとはとても思えない。
どうしようかと悩んでいると、シシリーは得意げに胸を張って「ふふん」と鼻を鳴らしていた。
「それについては安心して。ちゃんと考えがあるから!」
どうやらシシリーには、何か考えがあるようだ。
「それは?」
「それはね――」
――グルガァァァァアアアアアアアアアア!!!!
それは、あまりにも突然だった。
耳を
あまりの強烈な圧に思わず耳を塞いでしまった。
「な、一体なに!?」
「――あ、ま、まずいわ!?」
咆哮を聞いたシシリーの顔が見るからに引き
その様子を見て、私の全身を嫌な予感が駆け抜ける。
「シシリー、この咆哮はまさか!?」
「“あいつ”よ、あいつがこの近くにいるわ!? 急いで逃げないと!」
慌てた様子で私の周りを飛び回り、逃げるように促すシシリー。
シシリーの慌てぶりを見た私達は、事態の緊急さを瞬時に悟った。
「――ッ!? みんな急いでここを離れるわよ! 早く馬車に――」
「カリス様、何かがこちらに向かってきますじゃ!?」
だけど事態は、私達の予想を上回る早さで進行していた。
ヤスツナの叫ぶ声を耳にして、私もようやくその気配を感じることが出来た。
とてつもなく大きな気配だ。その気配が近づいて来る速度は
馬車で逃げようと思っていたけど、それが難しい事を私は直感で察してしまった。
ヤスツナに至っては私よりも早くその事を悟っていたようで、いつの間にか馬車を降りて刀を抜刀しており、既に臨戦態勢を整えていた。
本当に判断が早い。
(……できるなら、しっかりと準備を整えてからにしたかったのだけど、こうなったら仕方ない!)
私も覚悟を決めて馬車を降り、ヤスツナに合わせて剣を構える。
そして私が構えた直後、遂に気配の主が茂みから飛び出して来て、私達の前にその姿を現した。
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