14.調査4
「ありがとう、助かったわ!」
私の予想通り妖精は魔力切れを起こして眠っていたようで、私の魔力を与えたらすぐに目を覚ました。
「確認だけど、あなたが私に助けを求めてきた子でいいのね?」
あの時聞いた声の感じからしてこの子で間違いないけど、一応確認はしてみる。
「そうよ! 私は“シシリー”。よろしくね!」
「私はカリス。こっちがヤスツナよ。よろしくシシリー」
私達はお互いに軽く自己紹介を済ませ、シシリーから色々話を聞くことにした。
「それで、シシリーはどうして捕まっていたの?」
「友達を助けようとしたの。そしたら捕まっちゃって……」
「友達?」
「そう。最近よく遊んでる子なんだけど、森に入って来た人間に捕まっちゃって……。何とかして逃がすことは出来たんだけど、逆に私が捕まっちゃったの……」
「人間……」
おそらくそれが密猟者だ。
そして荷馬車の状況から、まだこの森にいるはずだ。
「それで、その人間は今どこにいるか分かる?」
「知らないわ。捕まって直ぐに布を被せられて、外の様子が全く分からなかったもの。……正直どうなるか分からなくて怖かったわ……」
そう語るシシリーの身体は小刻みに震えていた。
無理もない。捕まって檻に入れられ、布を被せられて外の光を遮断されたら、誰でも恐怖を感じて当然だ。
相当怖い思いをしたのだろう……。
「……でもね、私はそれでも諦めるつもりは無かったわ! 誰かに私の声が届くかもと思って一か八かで思念を飛ばしまくったら、偶然にもカリスと繋がったのよ!」
「なるほどね」
シシリーの事情は分かった。
シシリーの話し方からして、私に思念が繋がったのは本当に偶然だったようだ。
ともかく、シシリーの救出が間に合ってよかった。
「それで、カリス達はどうしてこの森にいたの? あいつらの仲間ってわけじゃなさそうだけど?」
「ああ、私達はね――」
私はシシリーにこの森にいると思われる幻獣の調査に来たことを話した。
「なるほど、森で暴れてる幻獣の調査ね……」
「シシリーひとつ聞きたいのだけど、この森には本当にそんな幻獣がいるのかしら?」
この森で暮らしているシシリーなら幻獣の事を知っている可能性は十分にあるし、その姿を見た事があるかもしれない。
とにかく、この森に現住している者から得られる情報はとても貴重で重要だ。
「確かにここ最近、森で暴れまわって荒らしまくっている奴がいるわ」
「本当!? そいつはどんな姿をしてるとか、どんな特徴をしてるかとか分かる?」
「残念だけど、私も姿まで見たことは無いの。とっても危険だから近付かれたらすぐに逃げろって言われてたから、気配を感じたらすぐに逃げるようにしてたし。だけど魔力の大きさとか質からして、そいつが幻獣なのは間違いないと思うわよ」
「そう、ありがとう」
何か新情報が得られれば御の字だと思っていたけど、これは予想以上に重要な情報が出てきた。
姿を見ていないのは少し残念だったけど、もしシシリーがあれだけの破壊の跡を残せる相手と相対して無事でいられるとは到底思えないから仕方ない。
でも、幻獣がいるという『確かな情報』が得られたのは大きな収穫だ。
何故なら、今後の私の行動を決定する上で、幻獣の存在の確証があるかないかの情報は重要なファクターだった。
と言うのも元々今回の件は、「幻獣がいる可能性がある」というだけで「幻獣がいない可能性」も当然あった。
言い換えるなら、私は幻獣の存在の確証が無いにも拘らず『専門特権』をチラつかせて、今回の件に無理矢理首を突っ込んで先導している状態だ。
ハッキリ言って、これは私の『専門特権』のギリギリ範囲外だ。職権乱用と指摘されてもおかしくない……。
……しかしシシリーの情報により、幻獣の存在がほぼ確実となった今は違う。
今の状況は私の『専門特権』の範囲内に入るので、これで私は大手を振って今回の件を全力で先導出来るようになったということだ!
「幻獣の確証が取れたなら、この森での調査はこれ以上必要ないわね。もうすぐ日も落ちるし、早くシア達と合流して帰りましょう」
「そうですな。二人の移動速度から考えれば、もうそろそろここに到着するころでしょう。合流次第、すぐに森を出るとしましょう」
「……もう行っちゃうの?」
私とヤスツナが森を出る打ち合わせをしていると、シシリーが寂しそうな表情をする。
「私達はこの森には調査に来ただけで、シシリーのおかげでその目的はほぼ達成したわ。それに日が落ちた森は暗すぎて土地勘の無い私達には危険だし、私は立場があるから完全に日が落ちるまでに帰らないと色々な人に迷惑をかけちゃうの」
「立場か……人間は大変ね」
シシリーは分かっているような分かっていないような表情で同情の言葉を口にする。
シシリーは妖精で、複雑な人間の社会というもの自体を知らない。何となく大変なんだと雰囲気で感じても、よく知らなければそういう表情になるのも仕方ない。
「そういうわけだから、私達はここに向かってる同行者と合流したらすぐに森を出るわ。シシリーも早くここを離れた方がいいわよ。シシリーを捕まえた人間がいつここに戻ってくるか分からないもの」
「分かった、そうするわ。でもその前に、捕まってる他の子達も助けてくれないかしら? 私一人じゃこの檻を全部開けるのは無理だわ……」
確かにシシリーの大きさだと、動物達を捕らえている檻を全部開けるのはとても時間が掛かりそうだ。その間に密猟者が戻ってくることも十分あり得る。
……いやそれ以前の問題として、檻には大きな南京錠で鍵が掛けられている。
私とヤスツナなら簡単に壊せる物だけど、シシリーの大きさに近いこの南京錠をシシリーが壊そうとすれば、とても骨が折れる作業になることは想像に難くない。
「そうね。このままみすみす密猟者に動物達が連れて行かれるのを指を咥えて見ているだけというのも気分が悪いわ。いいわねヤスツナ?」
「そうですな。シアとアモンが到着するまでに終わらせるとしましょう」
「ありがとう二人とも!」
そうと決まればさっさと済ませよう。
私とヤスツナは剣を抜き、檻の南京錠に狙いを定める。
「――ふんっ!
「――ほっ!」
――ガシャーンッ!!
二つの剣筋は正確な軌道を描き、鉄製の南京錠をいとも簡単に斬り裂いて破壊する。
南京錠が壊れた音にビックリした動物達は檻の中で暴れて固定するものが無くなった檻の扉に内側から体当たりし、そのまま外へと飛び出して逃げていく。
「凄いわ二人とも! あんなに頑丈だった鍵がまるで葉っぱみたいよ!」
シシリーは私達の剣技に興奮して、私の周囲をクルクルと喜んでいる様に飛び回る。
喜んでくれるのは嬉しいけど、迂闊に周囲を飛び回られると間違って斬ってしまいそうだ……。
「シシリーそこにいると危ないわ。こっちにいらっしゃい」
私はシシリーを呼んで自分の肩を指差し、掴まっているように言う。
シシリーは私の言う事に素直に従って、肩にギュッと力を込めて掴まってくれた。
これなら剣を振り回してもシシリーに当たることはない。
シシリーの安全を確保した私は、鍵の破壊を再開する。
一応剣を振る際にシシリーが振り落とされない様に気を付けて、肩の動きは必要最小限に
そうして次々に鍵を破壊して、動物達を逃がしてあげた。
「これで、最後ね……」
ヤスツナと手分けしたおかげで、思ったよりも早く動物達の救出は終わりを迎えた。
結局シアとアモンはまだ到着しておらず、ヤスツナの言った通り二人が来るまでに終わらせることが出来そうだ。
私は最後の檻の鍵に狙いを定め、剣を振り上げる。
「――お前ら、そこで何してやがる!?」
その時、突然私に向かって鼓膜が痙攣してしまいそうな野太い怒号が飛んできた。
剣を振り上げた態勢のまま怒号が飛んできた方を見れば、二人の厳つい男が茂みを搔き分け現れて、眉間しわを寄せながら私達を睨んでいた。
男達はガッチリとした体格で全身しっかりと武装していて、こっちに歩いて来る姿勢ひとつを見ても明らかに戦い慣れしている事が見て取れる。
近付いてきた男達は私達と荷馬車の様子を見て状況を察したのか、みるみる内に顔が赤くなって額に太い血管が浮かびあがる。
「このアマ! よくもやってくれたなッ!?」
「俺達の商品に手を出したこと後悔させるぞゴルァ!!」
男達はすぐに腰から剣を抜いて臨戦態勢を取る。
それと同時にヤスツナが私と男達の間に素早く割って入って壁を作る。
護衛としての完璧な動作だ。
「カリス、こいつらよ! こいつらが私を捕まえた奴らよ!」
私の肩に掴まっていたシシリーが男達を指差してそう叫んだ。
シシリーの証言で密猟者は一人じゃないことは分かっていた。そして男達が現れた時の雰囲気と言動から何となく察していたけど、これで確定した。
こいつらが、動物達とシシリーを捕まえた密猟者だ!
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