第19話 緊急事態

ただずっと見ているボクらもけっこう疲れていたけど、本日最後の“対象”を心して待つ。


もう何が出てきても驚かないなんて言ったらウソだ。


祭山田さんが一度手にしかけた道具を違うものに変えた。何かを感じたのだろうか……。


そして神託セクターの洞窟から“対象”は風のように現れた。


なんと声から先に出てきたのだ。女の子の声。


「あたしー、変わるわー」


しかもなんか聞き覚えあるぞ。


そして次の瞬間、ベルトコンベアに載って運ばれ出てきたそれは……、姿を現し……ってゆうか、── ゆっこちゃんじゃん。


ボクらの友達ゆっこちゃんが目を輝かせながらベルトコンベア上でバレリーナみたいなポーズ(スースしてデミプリエ的な)で流れて(?)くるではあーりませんか。

真っ赤なリンゴの着ぐるみだ。


何度見てもゆっこちゃんにまちがいない。


『真の発見とは新たな視点の獲得にある』という長い名字のコで、下の名前はシンプルにゆっこだ。AIが新生児の命名をする頻度が高まってからというものこういう長い文章のような名前も増えた。すごい計算能力で画数診断した結果なんだろう。


でも、どうしてこんなところに……。社会科見学をこじらせてしまったのだろうか……。


「ゆっこちゃーん、なんでー?」とボクらは叫ぶ。でも届かない。


祭山田さんが異変に気づいてこちらを振り向き、その動きで前髪の隙間から大きな目がのぞいた。


そしてボクらに叫ぶ。


「あなたたちっ、早くあのコを助けるのよ。すでにスモールライト照射の開始モードに入ってしまっているから、このままだとあのコ小さくなってなってしまうわ」


「えーっ」


猿元さんも慌てた様子で「くそっ、またか。他工場のAIによる生産妨害だ!急いで緊急停止しないと」と走る。


やばいっ、やばいっ。


破壊作業時の“対象”に第三者が近づくと破壊される設定がなされているでむやみには近づけない。やはり流れを止めるしかない。ゆっこちゃん自体はなんかの催眠にでもかかったかのようにまるでこの状況に気づいていないようだ。


なんとかして助けなくちゃだ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る