第16話 評価セクター
どんどん遠ざかっていく『元ランドセル』、いや、完成品をまるで我が子でも送り出すような目で猿元さんも見ている。そして一言。
「さあて、あれが評価セクターでどう判断されるか楽しみだ。流石は祭山田女史、人工知能ふぜいにはできない芸当ですな。非常に意匠性が高い、ハッハ」
──あの揚げパンが??と、ボクらは思ってしまったし、顔には出した。
祭山田さんはまだ息が整っていない。
ベルトコンベアが進む先に評価セクターが見えてきたそこは透明なガラスで覆われていて、この工場フロア内ではちょっとした箱庭感漂う異質な場所だ。その中には学者っぽい人がたくさんいて、まるでボウリングのピンみたいな並びで完成品を待ち受けている。
評価さえもAIが行わないなんて時代に逆行しまくってる。
この『完成品』、いや、揚げパン、いや、ランドセルがそのセクターの中央で止まる。
一斉に学者っぽい人たちがそれを囲んで吟味したり相談し合ったりしている。
微に入り 細にうがって……。入り うがって。
その表情からは厳正な審査を思わせる何かもあった。
猿元さんに言わせれば「データのないものがAIの予測範囲を超えて常に生み出されているからAIには評価できないし、させない」んだそうだ。
それを聞いてボクはタコの体のことを思った。タコの体には心臓が3つ、脳が9つある。頭と各足にひとつずつ脳があるため各足で動きの判断ができるんだそうだ。
脱帽よりは 脱脳ですな。
少し時間がかかりそうだった。
その間にこちらまで戻って来ていた祭山田さんと猿元さんがアフタートークになっていた。
「とてもよかったよ祭山田さん」
「ええ、どうも」
祭山田さんは小さく会釈した。
猿元さん大いに語る。
「ここ最近のトレンドとしては完成品の放つ本質的なものと第二義的なものとがうまく峻別されたかどうかという点が見られるから……」
「ええ、そうね。ともすれば今回のアタシ作は宇宙で宇宙飛行士が事故死する場合に似ているわ……。体液沸騰による破裂死……。すなわち、それくらい引き離せたかどうかが試される……」
「うん、そうだね。この作品は宇宙倫理の暴理感への憂いも込められてるわけだ……。注意破壊pointと興味破壊pointはそこそこ稼げてるはずだが……」
「ええ、でも、問題は残りのD・M・A破壊のpointね……」
うなずき合う2人。
ボクらはなんのこっちゃすぎて2人の顔を高速で交互にキョロ見するしかない。
さらに少しの時間。
そののち、穏やか目の合図音。
ピンポンパンポーン。
電光掲示板に評価がウルトラ文字でザザッと出た。
──『B-』の文字。
Bマイナスなんてボクとケイイチの歯磨き検査のランクみたいだ。
「まあ、そんなものね」と腰に手を当てる祭山田さん。
「うん、うん、妥当な線だ」と猿元さんも。
ボクらは2人からの説明を待った。
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