第15話 これがプロの技なのか
おっとそこで、ベルトコンベアのここから見える範囲での最上流部、傾斜があってクライマーコンベアになっているところが動きだした。その先は次世代神託セクターだ。
そのセクターの様子は分からない。暗い洞窟のようになっていて大きな入り口からベルトコンベアが吐き出されるようにここまで続いている。まったくAIとは逆思考で送り出す製品を決める場所だそうだ。その際にモルモットと呼ぶAIを逆利用する場合もあるとか。
ボクらにはこの構図は大きな口を開けたベロの長い怪物のように映る。
再びのビー音。
全ベルトコンベアが動き出す。
こちらへ こちらへ と。
演出じみたジェットスモークが両サイドからきた。
ついに『対象』のお目見えのようだ。
暗い洞窟の中からうっすらと何かが見えてきた。
きた!──しかも二つ。
でも、え!?なんで??そ、そんなんって……。
そのときのボクとケイイチの口はおそらくあんぐりなっていただろう。
だってそりゃそうだよ、流れてきた『対象』というのが……それが……ピーマン……じゃなくって、ボクらがピーマンみたくなるまでかっこよくアジを出すためにつぶしまくった自慢のランドセルじゃったのじゃっ。
「じゃね?」とケイイチ。
「じゃよ」とボク。
ボクとケイイチは学年男子で収納力を保ったままでいかに芸術的にランドセルをつぶせるか大会の1位と2位だから。
二つ仲良くどんぶらこっこと流れてくる。
ぱっと見この光景は空港の手荷物受け取り所さながらな、ながらだ。
あーどうしよー。でもハイタッチして。
あーどうしよー。
ていうか、なんでじゃよ。もういっかいハイタッチ。
ボクとケイイチは完全に社会科見学ハイになっていた。
あの『対象』がすぐそこにいいる祭山田さんのヤードのところまで流れてくるのにあとどれくらいかかるだろう。いや、そんなにはないはずだ。
迎え撃つ(?)祭山田さんはといえば、その背中はまるで、バッターボックス内でギリギリまで引きつけて打つタイプの大打者のよう。
ボクらの隣にいる猿元さんが「いよいよ祭山田ゾーンだ。さあ
そしてこのボクらの社会科見学的運命を背負った二つのランドセルが、ベルトコンベアの高さとしての絶好球で彼女のストライクゾーンへとやってきた。
そこでフルスイング!?いやいや、さあ、ここで何が起こるか、というか造られるのか。産業革命からつづく何かが終わるのか……。こちらの手にも力が入る。
「いい?2人とも、よく見ているのよ」と祭山田さんは声を脱ぎ捨てるかのように叫んだ。
もう彼女の手の届くところに『対象』はある。
転瞬の間があったのち、「キエエエエエ」と絶叫し、彼女はまず3Dスキャナで対象をデータ化して3Dプリンタで何個も複製した。いきなりそれだ……。まさか増やすとは思わなかった。もちろん彼女はベルトコンベアの速度と等しく下流へと移動しつつこれらの作業をしている。
そのあとでたくさんできたランドセルを光年単位の登下校を1万回したのと同じ抵抗を受けられる耐久テスト機に入れて耐え抜いた二つ選んで、それを4Dプリンタで複製して、今度はその二つのランドセルに対してPTAが打ち上げた人工軍事学習塾衛星による、放課後宇宙層圏からの銀河エネルギー集積ピンポイント置き勉レーザー照射した。
その温度に耐え抜いた二つのランドセルが残った。揚げパンみたいな色の揚げパンみたいなものに変わってしまってはいた……。
できあがった製品(?)にボクらは駆け寄る。
少し煙が上がっている。
近くで見てみると、ランドセルっぽい曲線が微かに残っているがほぼ揚げパンだ。
少し上流でもう立ち止まって見送っている祭山田さんは大きく肩で息をしながら、作業ヤードごとに設置されている『完破ボタン』を両手で押した。
するとつり下がっていた道具類がすべて上がり、ベルトコンベアは速度を上げ、ほかの作業員の注目を浴びる『元対象』を最下流のセクターへと流していった。
そこでケイイチが言った。
「あしたからあれ背負っていけるね」
「人気者にだけはなれそう」とボク。
自分の頭の中に頭の中がお花畑なひとがいっぱいいるみたいな混乱があった。ますますここが何の工場だかわからなくなった。
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