第14話 上級破壊作業員

「よろしく」と祭山田さんは小さな声でボクらに言ってくれた。


ほっとしたのもつかの間、工場内からけたたましいビー音が。


な、なに事だ。


あちこちの黄色いDANGER回転灯もくるくるピカピカだ。


そして天の声もしくは天の公共放送みたいなアナウンスが入る。


『上級破壊作業員はすみやかに位置についてください。繰り返します……』


それを聞いた祭山田さんはまるで憑依ひょういしたての芸人のようにわかりやすく腕まくりのポーズで気合い十分で言った。


「さあ、『対象』がどんぶら流れてくるわよ。芝刈洗濯機が使えるじいさんばあさん必見よ」


張りのある大きな声で生産(?)ラインのほうへ向かっていった。後ろ髪も結構長い。


──対象とは何だろう。今まで流されてきていた日常でよく見かける製品とは違うものなのだろうか……。上級レベルな人がわざわざ担当するわけだし……。


「さあ、君たちももっと近くで見学するといい、プロの技を」と猿元さんはなぜか野球のピッチグフォームでボクらを促してきた。


祭山田さんの立ち位置のすぐ後ろまで行く。すでに彼女はアスリート並にコンセントレーションしてコンベア上流をにらみつけている。


前髪を少しだけ指でかき分けた。表情は向こう向きなので見えない。


構図的ににはハラペコなひとが立ち食い回転寿司でとるポジショニングに近い。


おもむろに作業用ゴム手袋を顔の高さでパチンとはめる様は、まるでオペ前の外科医のようだ。なんかそれだけでほれぼれするし、すごく社会科見学的興奮が味わえる。


ボクらの横に立つ解説員の猿元さんが心の内を見透かしたような前口上をくれた。


「その昔、プロフェスという言葉は。教授と司祭と医者にしか使われなかったという。ただAIが全てを担う現代はプロとはたったひとつ、彼女のようなタイプにしか使われない、とくとごらんあれ」


彼女のまわりに何かがするすると天井から降りてきた。たくさんの破壊道具だ。吊された状態でなんでもすぐ使える体制も整った。


──何が始まるんだろう……。


「ワンチャン、お化けあるかな」とケイイチが言った。


「ワンチャンあるかな」とボクもなにかに言った。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る