第12話 本当の社会科見学はじまり
そこはさながら軍需工場のようなスケールだった。もちろんこの時代に人が働いているというだけでもショッキングだった。
野菜の着ぐるみの作業員さんたちは、それぞれのヤードにまるでライブキッチン形式のレストランのシェフくらいの間隔で配置されている。
広大なワンフロアですべてが完結していてこの場所からよく見渡せたし、自分の手のひらディスプレイで遠くのほうもモニターできた。言ってなかったけど、現代人は子供のころから手のひらがタッチパネル化していて半デジタルデバイスになっている。そのことは『退化論』という大著を参照してもらいたい。
今日は社会科見学なのでそのアプリで連携してある。ちなみに改札も手のひらで通る。当たり前だけど。手汗を甲からかくようにしてある。
工場の話に戻ると、基本的なシステムについては、ボクらが今まで社会科見学でお邪魔したほかの工場と大差はないようだ。
ただベルトコンベアの上では製品は浮かんで流れてくるし、そのベルトンベアはなんというか自分の意志で伸びているかのようにうねうねと長い。だからこの工場内に大腸のようにぱんぱんに詰まっている感じだ。
そして人の数が多いせいか、AI完結型の工場より室温が高く感じる。
べつにあやめもわかぬ暗闇を想像してたわけじゃないけど、高い天井からの照明が明るすぎて、ルクスやばい。
もしかしたら『ムダ発電運動』のせいかもしれない。ムダにエネルギーを使いまくって、一旦枯渇させて、クリーンな地球に早めに生まれ変わらせようという運動が一部でおこっているとニュースでやっていた。
もちろんこの工場がステキに見えるからまぶしいだけなのかもしれないのだけど。
ケイイチのすぐ横の壁に貼ってあるスローガンポスターを読んだ。
【〈①注意 ②興味 ③欲望 ④記憶 ⑤購買行動〉の順に正しくAIDМA破壊をしよう!!】というもので、すでに悲惨なくらい落書きがされていた。
とにかくここは壊したくてしかたない工場みたいだ。これも前にケイイチとした自由研究でコピペを何回繰り返すとそれはコピペしてないことになるのかの限界をコピペしようとしたときのような逆説だ、ここは。
そのあいだも各ヤードからは破壊音や絶叫が聞こえてきているのだけど、実は前にこちら向きで立っている猿元さんが製品の流れてくるいいタイミングで視界をわざとらしく遮ってくるので肝心なとこが見れていない。
刺激が強すぎるからそうしているんだろうか。しおりでいったらプログラムナンバー何番なんだろう。
早く見たい。
すると猿元さん「ほいっ」と言って、あらかじめ決められた時間しておかなきゃいけない落とし蓋みたいにさっとどいてくれた。
そしてボクらは目の当たりにした。
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