第8話 〇〇を壊した過去

猿元さんは再び面接モードに戻った。


「さ、で、さっきの質問だけど、君たちが壊したものは?」


「……んー」


急に言われてもなー。面接のほろ苦デビュー。でもボクの代わりにケイイチが何かを思い出してくれたみたいで「あったー」と手をたたいた。


「あれだよ」


「あ、あれかー」


ボクも思い出した。あれを。


2人でいっしょに声を合わせて言った。


「せーの、『川』です」


「なんだって⁉  川⁉」


今度は猿元さんが“?”になる番。


「ほら、すぐそこの川だよ」とケイイチは工場のそばを流れる川を指でさした。


川の名前を知らないことにいま気づいた。どうして川の名前には、はじめてその川を発見したした人の名前をつけないんだろう。


猿元さんは意外だったせいか、「川を……ねえ」とモゴモゴったあとで、急に背筋を伸ばして、「どうやって?」と、きいてきた。


これは面接なので、きちんと面接なりの受け答えをしようと思ったんだけど、その事実が事実なだけに、結局はダイジェスト版みたいな報告になってしまった。


〖そうです。ボクらはあの日あの川を壊したのです。その日も川は流れていました。ケイイチとボクは自由研究のためにあらかじめアクアショップの山田マリンで手に入れておいた『爆逆魚ばくぎゃくぎょ』の力を使ったのです。生きたままでしか捕獲されたことがないことから幻の魚と呼ばれているその爆逆魚をなぜボクらが入手できたかというと、山田マリンがメタバース内で地上じあげにあっていたのをボクらが助けてあげたからそのお礼にいただけたのです。

ボクら2人でやっと抱えられる大きさのその魚は、ミドリ色の半分の色で、ウロコが虹のように多くて、しかもそのすべてのウロコがプロペラのように回転していて、とても手でつかみづらい魚なのです。

「この魚をぜったいに川に放したりしてはいけないよ」というフラグを山田マリンのひとが立ててくれたので、川に放したのです。

川に入った爆逆魚はといいますと、川の水を吸い込むように口から飲んで、足りない分はウロコからも飲んだのです。そんなところからもこの魚の干物は人工光合成装置の重要な部分にも使われるほどです。その日はすごく快晴で、爆逆魚はまるでハチドリの飛び方みたいな泳ぎ方で泳いだのです。

その目は漆黒のブラックホールのよう……、と、思ったのもつかの間、そこから向こう岸までが『川モーゼ』のようにまっすぐに切り開かれたのです。

川はそこで上流と下流に真っ二つ分かれて、ついに壊れたのです。

そして爆逆魚は吸い込んだ水を思いっきり吐き出しながら、その動力でロケットのように空高く飛んでいったのでした。

さようなら  さようなら。 

どうかあの爆逆魚が雲の上で外来種と仲良くできますように……。

ボクらは手をあわせたのです。

と、まあ、ざっとこんなところが、あれです〗


ボクらは長い説明を終えた。身振りと手振りを交えた。のどがからからになった。いま思い出しても不思議な出来事だった。自由研究とは自由な枠組みづくりの過程であってはいけませんよとそのときの担任には言われた。


すべてを聞き終えた猿元さんは「ほう」と言って、テーブルに両肘をついた。半信半疑の人がする仕草のパターンのほとんどをそのあとでした。面接チェックシートの端のほうにいくつかチェックを入れていた。

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