第5話 採用担当のひと

採用担当のその男の人を待っているあいだ、ボクらはまるで学校で悪いことをして廊下に立たされているときと同じ気分になりかけた。


それはこのお化け工場が学校と同じにおいをさせていたからにほかならなかった。


もしかしたら今つくっているのは、学校の怪談に供給するためのものなのかもしれない。もしそうだとすれば、現役のボクらもなにかお手伝いできるかもしれない。少なくともボクらの学校に怪談は足りていないし。


しばらく時間が経過した。まだ誰も来ない。呼び出しのベルなどを鳴らしてできたてのお化けをダメにしたら大変だ。とりあえず待つ。


「ほんとうにここで待つように言われたの?」とボクはケイイチにきいた。


「うん、でもほんとうはイタズラなら切りますよって電話で言われたんだ……。だからすなわちそれは面接に来いっていう裏の意味と思ったんだ」


「なるほど、それならここで待つしかないね」


ボクは納得してケイイチは元気になった。


また時間がたった。どうしてお化けが服を着てないかわかった。脱ぐ時間がなかったんだ。時間がありすぎると逆に足りなく感じるものだ。


それにしてもずっとあえて言わなかったけど入ってすぐの正面にすごくリアルな蝋人形みたいな男の人の置物があって、たぶん演出だとは思うけど、気味悪すぎて気づいてないことにしていた。


男の人は作業しやすい格好のままじっと立って瞬きもせずにこちらを見ている。しんどそうだ。


しかたなくボクらはそのリアルな蝋人形のわき腹をこちょこちょくすぐった。


すると人形はわかりやすくリアクションした。


「もー、ちょっとーやめてくれよー」


それが採用担当の人の声と一致する事をケイイチは暗に認めた。メガネをかけている。


咳払いして取り直してから「私が採用担当の猿元です」と言ってメガネを軽く持ち上げた。


「よろしくおねがいしますでいいですか」とボクらは同時にきいた。


「いやー、電話でそっけなくしてわるかったね。替え玉とかが多い時代だから、うちは三回目までは断るようにしてるんだよ」


猿元さんは上からボクらを見下ろしながら笑顔で軽く頭を撫でてきた。雑な撫でかただった。


その際ボクらは無表情でいられた。


「あのー実はピーマンではなくて……」とケイイチはおそるおそる言った。社会科見学のおみやげは一大関心事なわけだから。


「うん、その件ね、オッケー。対応するー。そっかー、君たちが君たちかーそっか、そっか」と猿元さんはメガネを光らせてそのあとは自分のことだけを長く話した。


全ての飛んでくるつばをけきって、事なきを得た。


それでケイイチが「お化け博士に違いない」とボクに耳打ちした。


たしかにお化けを作り出すにはすごい自分を持ってる人じゃないと乗り移られてしまいかねない。


ボクらが小学4年生のブンザイであるということはそのとき伝えた。


とりあえず面接室に行くことになった。

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