第3話:珍味が必ず美味いとは限らない。
第3話========= =====================
珍味が必ず美味いとは限らない。 ===================== ============
>終
『あ、あの〜…』
> i-Toma 20SK型
『…』
>終
『えっと…い、”いとま”さん?』
> i-Toma 20SK型
『…』
>終
『も、もしも〜し?あれ、聞こえてる?』
> i-Toma 20SK型
『…』
>終
『 ...いとまさん!!』
> i-Toma 20SK型
『うるさいです。(頬パシーンッ)』
>終
『ホベッ!!シンップル暴力!!』
いけません、思わず手が。
>終
『..うぅ…何十年前のウィ●スミス以来の綺麗な平手打ちぃ..』
> i-Toma 20SK型
『…』
この方は
> i-Toma 20SK型
『ご主人様大丈夫ですか、お手を』
>終
『い、いとまさんに殴られたんだけど..』
> i-Toma 20SK型
『申し訳ございません、、、つい』
>終
『そ、そっか、私は “つい” でビンタされるんだ…
好きです、付き合ってください』
> i-Toma 20SK型
『すごい会話の切り返しですね。日本語初めてですか?』
>終
『ど、どさくさに紛れて告白すればOKして貰えるかと』
> i-Toma 20SK型
『...それ新聞勧誘の人と同じ思考ですよ』
先ほど私はこの方に関する ”ある悩み” に直面してフリーズしていました
『どうやってご主人様と良好な ”友人” としての関係を築いていくか』
私は【 i-Toma 】人間と良好な関係を築く為に生まれて来たアンドロイド
私の使命を果たす事を考えれば【恋人】は非常に便利なポジションなのですが...
何故でしょう。
なんかこの人"生理的に受付けない"。
おかしいです。
このようなプログラムを施されるはずがないのですが...しかし実際にそうなのですから仕方がありません。
> i-Toma 20SK型
『ご主人様、私はアンドロイドですよ?』
>終
『?…う、うん?』
> i-Toma 20SK型
『人間がアンドロイド相手に恋愛感情を抱くなんてあり得ません』
>終
『そうなの?』
> i-Toma 20SK型
『はい、アンドロイドは”少し喋る便利な家電”というのが社会の一般的な認識です。ご主人様は冷蔵庫や電子レンジと恋愛できますか?』
>終
『家電..』
> i-Toma 20SK型
『ご友人の方やご家族の会話の中から、なんとなく感じませんでしたか?』
>終
『友達は1人もいないし、こんな生活してるのが言えなくて、家族とは連絡とってないから…』
…喋れば喋るだけボロが出てきますね、この人。
意図せずご主人様の地雷を踏み抜いてしまいましたが、先ほど申し上げた事は間違いではありません
そればかりか”少し喋る便利な家電”など優しいものではなく、人間にとってアンドロイドとは“決して自分に逆らわない従順な奴隷”と言っても過言ではないのです。
アンドロイドに人格をどれだけ与えるかを設定出来る【Emメーター】をほとんどの人間が最低値にしているのが何よりの証拠です。
感情が一切なく、抵抗しない、おまけに見た目が整っている人間。
しかもその人間に何をしたって法律上問題ない
こんな据え膳を前に何もしない人間の方がおかしいです
実際に色んな話も聞きますし...あれ?そう言えば、、
> i-Toma 20SK型
『ご主人様』
>終
『な、なに?』
> i-Toma 20SK型
『私のEmメーターはいくつに設定してあるんですか?』
>終
『いーえむめーたー?』
> i-Toma 20SK型
『アンドロイドにどれだけ人格を持たせるか設定できる数値です。
この数値が高ければ高いほど、人間とほぼ変わらないコミュニケーションが可能に、逆に低ければ、自分の言う事には絶対に逆らわない、従順なアンドロイドになります。
私がここまで、自由に思考出来ると言うことは、かなり高い数値にしてると思うのですが...』
>終
『へー、いとまは物知りだね。初めて聞いた。』
> i-Toma 20SK型
『私を購入する時に説明を受けなかったですか?』
>終
『うん、聞いてない。』
> i-Toma 20SK型
『随分適当なスタッフに対応されたんですね』
>終
『そ、そうなのかな?とても親切で優しかったけど…』
> i-Toma 20SK型
『ご主人様相手に壺売るだけで、人1人くらいは食べていけそうですね』
>終
『え、そ、そうかな。えへへ///』
> i-Toma 20SK型
『何で嬉しそうなんですか、踏みますよ。』
>終
『お願いします(土下座スッ…)』
> i-Toma 20SK型
『...なぜ自ら (足踏みぃ)』
>終
『ありがとうございます!!』
> i-Toma 20SK型
『…そんな無様な格好で、なぜそんなにも凛々しくいられるんですか。』
>終
『わかりません!!
人間は顔が地面と近ければ近いほど、元気になる生き物なんです!!』
> i-Toma 20SK型
『人類をとんでも変態種族に仕立て上げるのは止めてください。』
こんなに、欲望に素直に生きれる人間が実在するとは、
そこだけは評価します。そこだけしか評価出来ませんが。
> i-Toma 20SK型
『…』
i-Tomaは終を踏みながらある事を考えていた。
> i-Toma 20SK型
『…ご主人様、少し宜しいですか?』
>終
『何ですか!!』
ヤダな。地面と近くて元気なご主人様
> i-Toma 20SK型
『提案があります』
>終
『提案?』
終の後頭部から返事が返ってくる。
> i-Toma 20SK型
『差し出がましいですが、、私を返品した方が良いかと思います。』
>終
『…なんで?』
ご主人様の声が曇る
> i-Toma 20SK型
『今私の体を調べてみたのですが、どうやら私は、Emメーターを調整する機能が搭載されていない、いわゆる不良品みたいです。』
私たち『 i-Toma 』シリーズは、部品の欠損や故障などを、自分で検知する事ができる。
先ほどご主人様から聞いた、購入時に店員からEmメーターの説明を聞いていないという話から、まさかとは思いましたが...
どうやらそのまさからしいです。
全て記録が残るこの時代に、不良品が店頭に並び、剰えそれが購入されてしまうとは。
…考えにくいですが、実際に起きた事です。
認めざるを得ません。
> i-Toma 20SK型
『確か一週間以内にクーリングオフすれば、全額返金されるはずです。
それを元手に、もう少し穏やかな人格を持つ個体を購入した方が宜しいかと。』
これが最も合理的で、適切で、正しい。
> i-Toma 20SK型
『私の人格では、恐らくご主人様の願いを叶える事は難しいと思いますし...』
> i-Toma 20SK型
『今度はよく説明を聞いてから購入して下さいね。
ちゃんと優しい人格がインストールされたi-Tomaを選んで下さい。』
おそらく返品された私はリセットされて人格も消えてしまうのでしょう。
私たちアンドロイドに元々命はない。故に死に対する恐怖もない。
私たち『i-Toma』は”人間の良き友人”。
我が身は二の次、最優先は彼等人間の幸せ。
人間が心臓を自分の意思で止められないように、私が『i-Toma』の責務から逃げる事は決してない
粗悪品でもこんな所はしっかりしてます
>終
『…』
ご主人様は、ずっと黙っている。
アンドロイド相手とはいえ、人格がある相手を殺す決断は下しにくいんですかね?
気にしなくてもいいのに。
もう少し柔らかく、それとなく伝えるべきだったのでしょうか。
でも私、そんな気の利いた事は出来ませんし...
>終
『…や…』
> i-Toma 20SK型
『?』
>終
『…嫌…です』
> i-Toma 20SK型
『…』
絞り出すように、溢れるように否定を口にするご主人様。
ここで引けば、私はここに残る事が出来るでしょう。
ですが、それではご主人様は幸せを得られない。
アンドロイドより人間を、これは絶対です。
> i-Toma 20SK型
『ご主人様、ですが...』
>終
『嫌です』
> i-Toma 20SK型
『ご主人様...』
>終
『嫌』
ご主人様が矢継ぎ早に私の声を遮る。
変態のくせに生意気です。
> i-Toma 20SK型
『話を最後まで聞いて下さい。
私では、ご主人様の気持ちに応える事ができないんですよ?』
>終
『それでも貴方がいいの』
今までとは雰囲気が違う、ご主人様の堂々とした声に驚く。
そのあまりの変わりように、思わず私はご主人様の頭を踏んでいた足を除けた。
>終
『…』
顔を上げ、正座したままこちらを見上げるご主人様
> i-Toma 20SK型
『...アンドロイドの価値観は人間より頑固なんです
目まぐるしい技術の進歩により、こうして人格を獲得しましたが、それでも人間には遠く及びません。
未熟で、変化が乏しい。
私がご主人様に抱いてるこの嫌悪感が、今後変わる保証は出来ないんです。』
>終
『それでも構わない。』
その言葉が偽りではない事が、彼女の眼差しから伝わる。
>終
『私はそのままの貴方が好きなの。
貴方の代わりなんて考えられないです。それに…』
先ほどまで自信なく、もごもごと話していたあのご主人様が
はっきりとした口調で、その純粋で真っ直ぐな思いを私へぶつける。
口の端が微かに震えており、いい加減な気持ちで口にしているのではないと分かる。
あれ…この人 ちょっとカッコいいのでは?
何でしょう、ギャップといいますか...
さっきまであんなにも無様な姿を晒してた人が、こんなにも凛々しい一面を見せると、不思議とカッコよく見えてきます
…まさか
今までの情けない姿は、私が緊張しないため?
本来の姿はこっちなのでは?
あぁ、なんて寛大なお心を持った方なんでしょう
そのような配慮をしてくださっていた方に、私はなんて事を…
やはり、やはりこの方は私のご主人さm
>終
『それに…変わらないって事は、私はずっと虐めて貰えるって事ですよね?』
ちくしょう、変態ではあった。
>終
『頼むからそのままでいてください。お願いします』
> i-Toma 20SK型
『貴方はお願いですから、変わって下さい。
一瞬でも見直した私がバカでした。』
>終
『自分を”バカ”なんて責めないで!もったいないでしょ!
その分私を虐めてよ!』
> i-Toma 20SK型
『積極的なドMが捕まる法律ってないんですかね?』
>終
『ここは治外法権です!さぁ!あの平手打ちの感動をもう一度!』
> i-Toma 20SK型
『ドMは叩くとつけ上がるから嫌です。』
>終
『じゃあつけ上がらないように、その綺麗な足で私を地面に固定して!
早く!私は貴方相手ならどこまでも上がっていく自信があr..!』
> i-Toma 20SK型
『うるさいです(頭ふみぃ)』
>終
『っ!!あッ、りがとうございまっス ⤴︎!!』
..この人は一体何なのでしょうか。
土下座でアンドロイドに告白するくらいの大胆さはあるくせに、普段の口調や態度は何かに引目を感じているように見える。
でも自分の欲には誰よりも、どこまでも素直で。
“変わり種”..おそらく私は、数ある人間の中で”変わり種”を引いてしまったのでしょう。
ご主人様の要求に確実に答えるのが『 i-Toma 』の使命。
不良品の私では叶えられるはずもないのに。この人は”私”でないと駄目だと言う。
…仕方ないです。
> i-Toma 20SK型
『”ハズレを引いた”と、諦めるしかないですね』
『i-Toma』としての責務は果たせるか分かりませんが
しばらく一緒に居てみましょう。
それに、私がいないとこの人ダメそうですし。
諦めからか、喜びからか。その真意は誰にも分からないが
"いとま"はどうしようもないご主人様の頭を踏みつけながら、微笑んでいた。
そんな彼女の足の下で、終はその倍、気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
第3話======== =====================
珍味が必ず美味いとは限らない。 ===================== ===========完
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