四章――②

 壮悟が見つけたそれは、ちょうど美希の胸元当たりの高さにある。トンボの向きは揃っておらず、作りの精巧さも相まって今にもバラバラに飛び去っていきそうだ。よく見れば各トンボをつなぐように細い溝が入っており、全てつなげると五角形が出来上がる。

「ここの壁の周りだけなんにも物置いてあらへんくて、なんでやろなって近づいて見つけてん」

「まあ単なる飾りじゃないだろう」

 榛弥が五角形の頂点にあるトンボに手を伸ばす。黒々とした複眼は溝で繋がった斜め右下の個体に向けられ、そちらの複眼は緑がかった青色である。さらにその下に留まるトンボは朝日のような赤色、その左隣はタンポポに似た黄色の目を持ち、最後の一匹は乳白色の目で頂点のトンボをじっと見つめていた。

 一方、周囲の石を美希が数えたところ、五角形の上に白、下に紫が埋まり、向かって右に青、反対の左に赤、最後に五角形の中心に黄色と、合計で五個ある。トンボの数と同じだ。

「榛弥兄ちゃんはこれもセイレイさまになんか関係しとるって思っとんの」

「なんの意味もなく設置するとは考えにくい。恐らくなんらかの儀式、それこそパワーを貰ったりする場なのかも知れないが」

 言いながら榛弥はその場に膝をつき、ライトを頼りに床をじっと見つめたり壁を撫でたりする。彼の観察眼ならすぐに答えが出てくるだろうと美希は期待したのだが。

「仮にここで儀式を行っていたならセイレイさまに物を捧げるための祭壇を用意するだろうし、その跡が残っていてもおかしくなさそうなのに見当たらない。この周りの床だけあまり埃が溜まっていないから、使いやすいようにスペースを設けてあるのは間違いないと思うんだが、ううん」

「……扉です」

 ひっそりと雅太が声をあげて、三人は一斉に背後に立っていた彼に振り向いた。

 どういう意味だ、と聞くより先に、雅太は青い目のトンボに手を伸ばして腹の部分を摘まむ。

 次の瞬間、きりきりと鈍い音を立ててトンボが動いた。

「鍵になってるんです。こうやって、全部のトンボの向きを正したら開く仕組みになってて」

 かち、と音が鳴り、青い目のトンボは真横にある青い石を向くように止まった。雅太は手を引くと、ライトに照らされるのを拒むように暗がりへ一歩下がろうとする。美希は寸前で腕を掴んで引き止め、「なんで?」と眉を寄せた。

「さっきまで協力してくれへん感じやったのに、なんでいきなり教えてくれたん」

「今のはあくまでヒントだよ。正解を教えたわけじゃない」

 雅太は美希の手を振りほどくことなく、陰鬱そうな力のない声音で続ける。

「これ以上は誤魔化しても無駄な足掻きになりそうだなって思ったんだ。特に、福辺さんには。俺がなにも言ってないのに五芒星のこととか知ってるし、さっきの部屋もひと目見ただけで言い当ててたから」

「お褒めの言葉をどうも」

 感謝の言葉を述べる数秒だけ雅太を一瞥して、榛弥はすぐに視線を五羽のトンボに戻してしまう。きっとこれまで蓄えた知識をすべて使い、鍵だというそれを開く手がかりを探るのに忙しく、他のことを気にかける余裕が無いのだろう。

「扉なんやったら、ここ開けたらなにがあんの」

「セイレイさまのパワーが一番強い場所だよ。仙嘉もそこにいる」

「!」

 雅太の腕を掴む手に力がこもる。友人の顔を思い浮かべつつ、美希は鋭い眼差しで彼を睨みつけた。

「無駄な足掻きや思うんやったら、ヒントやなくてちゃんとした開け方教えてくれたらええやんか」

「俺はセイレイさまに嫌われてるから、父さんか母さんが付き添ってないとここから先は入っちゃいけないんだ。それで、」

「勝手に入ったら親に怒られる。それで怖ぁて開けられへんの? アホらし。この向こうに仙嘉居るて言うたよな。一応聞くけど、あの子は自分の意思でそこに居んの?」

 返事をせず、雅太は無言で首を横に振る。

 本人の意思で留まっているのではない上、連絡手段を取り上げられ、鍵のかかった部屋からも出られない。明らかに監禁以外のなにものでもなかった。

「それが犯罪やって分からんほどアホちゃうやろ。雰囲気的にあの子閉じ込めたんは秋津くんの親やんね。なんで止めたらへんの!」

「……暁戸さんはさ、誰かが死んだのを自分のせいにされたこと、ある?」

 脈絡も無しにいきなりなにを聞かれたのか分からなくて、「あらへんけど」と否定するのに時間がかかった。

「俺はある。兄さんが死んだのは俺のせいだって、父さんと母さんに何度も言われた」

「……やっぱ秋津くんのお兄さん亡くなっとったんか。交通事故やて近所の人に聞いたよ」

「子猫を助けようとして車に撥ねられたんだ。車のスピードが出てたのと、打ちどころが悪かったのもあって、病院に運ばれたけどそのまま息を引き取った」

「それがなんで秋津くんのせいになんねん。子猫を道路に置き去りにしたんがあんたとか、そういうオチちゃうやろね」

「違うよ。俺、小学生の頃にうっかりトンボを殺したことがあって、それから毎日、使いを殺してしまってごめんなさいってセイレイさまに謝ってきた。でも誠意が足りなかったから罰を下されたんだって言われたよ」

「意味分からへんねんけど。トンボ殺したんが秋津くんなら、罰下されんのも秋津くんやないとおかしいやん」

「兄さんが身代わりになってくれたんだって母さんに殴られた。『あの子は優しいから、セイレイさまが罰を下すのを察して、あなたみたいな出来損ないでも助けてくれた』って」

 どれだけ謝っても両親の怒りは収まらなかった。それ以降、わずかでも両親の機嫌を損ねたり、秋津家にとって不都合な出来事があれば、雅太の罪をきっかけにセイレイさまの加護が薄れたと、時に暴力を伴って叱責された。

 その痛みと苦しみが、雅太から反抗する術と意思を奪ったのだろう。

「俺は父さんたちに逆らえない。逆らいたくない。……けど、仙嘉を閉じ込めるのが犯罪なのも分かってる。だからここを暁戸さんたちが自力で開けられたら、俺は素直に協力する。父さんたちに怒られるのは怖いけど、仙嘉を解放してあげたい気持ちがあるのも本当なんだ」

「今さらなに言うてんねん。白々しいわ。ほんで? あたしらが開けられへんかった時はどうすんの。答え教えてくれんまま『帰れ』て言うん?」

「開くまで粘るのは構わないけど、午後には父さんと母さんが帰ってくるんだよ。ここに入ろうとしてるって気づいたら、あの人たちがなにしてくるか分からない」

「だから潔く諦めて帰ってくれ、と。残念ながらそれは無理だな」

 黄色い目のトンボに指を沿えて、榛弥が雅太を見ることなく言う。きりきりと回ったそれは、中心の黄色い石を向く位置で止められた。

「セイレイさまのパワーが強い場所がこの奥にあるなら、実際に見るべくここを解錠しないとな。美希の友人が監禁されてるなら尚更だ」

「まるで正義の味方ですね」

「そこまで大袈裟なものじゃない。僕はあくまで自分の好奇心に従ってるだけだ。……で、次はこっちを回せばいいはず」

 ひょいと肩をすくめて苦笑してから、榛弥が次のトンボに触れる。

 もしかしてヒントのおかげで、すでに答えが分かっているのか。美希が訊ねてみれば、彼は雅太が初めに回した青い目のトンボの翅を指先でつつく。

「目の色と配置から考えると、ここにも陰陽五行説を活用してある。敷地の色んな所に短冊がぶら下がってたのは覚えてるな?」

「門のとこが黒で、離れが白で……ってやつやんね」

「そう。このトンボも上を北として考えた場合、目の色と短冊の色が全て一致するんだ。さらに秋津くんは青い目のトンボを青い石に向けて止めただろ? ということは、だ」

「目ェと同じ色した石に向くように動かしたらええ、ってこと?」

「僕の予想ではな。けど、適当に動かすのは駄目なんだろう」

 美希と雅太が話している間に、榛弥は何度かトンボを回してみたらしい。けれど一向に開く気配がなく、なにか法則性があるのではと思い至ったようだ。

「トンボ同士が線で繋がって五角形を作っているから、まず〝相生そうせい〟の順に回してみたんだ」

「ソウセイ……ってなに?」

 美希と壮悟が首をかしげると、榛弥は青い目のトンボを指し示す。

「例えばこの青い目のトンボだが、青に対応する五行は〝木〟だ。そこから繋がったトンボの目は赤いから対応する五行は〝火〟なのが分かる。火は木があるから燃えるだろ? これを〝木は火を生ず〟といって、この仕組みを〝相生〟と呼ぶ」

 その法則に従って青、赤、黄、白、黒の順に回してみたものの、手ごたえは無かったそうだ。

「そもそも色がおかしないか?」壮悟が黒い目のトンボに指を伸ばす。触れようとしないのは、いくら作り物であっても虫が苦手だからか。「周りの石に黒てあらへんし、なんかの引っかけやったりして」

「いや、黒の代用として紫が使われることもある。五角形の下に紫の石があるから、この鍵の場合はそこに合わせればいいはずだ」

「けど開いてへんやん」

 言われなくても本人が一番分かっているであろう指摘だ。若干イラついたのか、榛弥が壮悟の手の甲に強烈なデコピンをくり出していた。

「ほんなら五芒星は? 魔除けの形なんやったらここでも使てそうやん」

「可能性は高い。やってみるか?」

 背中を軽く叩かれて、美希は唾を飲み、恐る恐るトンボに触れる。

 やってみるかと言われても、次はどれを回せばいいのか分からない。五芒星を一筆書きする時の順でやればいいとしても、人によって五芒星の基点と、線を進める方向が違う。美希が思う順番と、解錠に必要な手順が異なるかもしれないのだ。

 ――始まるとこは秋津くんが最初に回したとこでええんかな。そうやとしたら次は……左か斜め左下か、どっちや。

 雅太の両親が帰ってくるまでのタイムリミットを考えれば、悩める時間は多くない。

 思い切って左にある白いトンボを回そうとしたが、「ちょっと違う」と榛弥に止められた。

「さっき〝相生〟の話をしただろ。その反対に〝相克そうこく〟っていうのがあって、相生が働きを促すものだとすれば、相克は働きを止めるものなんだ。それを図で記すと五芒星になる」

「そんならそうて早よ言うてよ。悩んどる時間もったいなかったやん!」

 べえ、と美希が舌を出して文句を垂れれば、榛弥は素直に「すまん」と頭を下げてきた。分かってくれればいい。

「ほんなら次どれ回したらええの」

「木の成長には土が欠かせない。逆に言えば木は土の栄養を奪ってしまうんだ。これを〝木は土を克す〟というから」

「〝木〟に対応しとるやつを回したらええってことね。どれかよう知らんけど」

 左隣が違ったのなら、恐らく斜め左下が正解だ。美希は黄色い目のトンボを、中央に据えられた黄色い石に向くよう動かした。

 かち、とかすかな音とともに、鍵があるべきところにはまったような手ごたえが指先に伝わった。

 目をまたたいて思わず榛弥を見つめてしまう。その調子だと励ますように、彼はゆっくりうなずく。

 ――星書く時やったら、次は一番上まで線引っ張るやんね。

 予想をつけて頂点の黒い目のトンボを回してみる。紫が黒の代用だと聞いたため、その方向に動かした。

 しかし先ほどのような音が鳴らないだけでなく、指先の手ごたえも無い。聞こえなかっただけだろうかと思ってもう一度回転させてみたが、思ったような感触はいつまで待っても来なかった。

 そのまま他の二つも正しいと思われる向きに動かしたけれど、扉は壁に同化したまま開かない。

「相生でも相克でも無かったりせえへん?」

 不安も露わな目で榛弥に問いかけてみたが、彼も煩悶した面持ちで口元を手で覆っている。

「なにか別の、か……けど他に考えようがない」

「なんでもかんでも陰陽五行ってわけちゃうんやろ、知らんけど。あー、あかん。腰痛い」

 文句をこぼして壮悟がしゃがみこむ。トンボがある位置的に、兄はずっと背を屈めて中途半端な姿勢を維持していた。壁に手をついてため息をこぼし、腰を擦る姿はほんの少し不憫である。おまけにライトをかざし続けて腕まで痺れてきたようで、美希はスマホを押しつけられた。

 手元のスマホが増えたおかげで目の前がずいぶん明るくなったが、逆に手がふさがってしまいトンボを動かせない。榛弥は考え込んで微動だにせず、雅太は必要以上にヒントを出すまいとするように唇を真一文字に引き結んでいる。

 手が空いているのなら、口を出さないにしてもせめて壮悟のスマホを代わりに持ってもらえないか。雅太にスマホを差し出そうと手を動かした瞬間、ふと美希の視界でなにかがきらりと輝いた。

「……うん?」

「どうした」

「いや、なんか光った気ィして……」

「ライトが石に反射しただけちゃうん」

「かも知れへんけど、なんか……」

 トンボや石がある場所から少しずれた箇所が光ったように見えたのだ。当たりをつけてスマホを振ってみると、紫色の石の左側かつ、赤色の石から見て真下のあたりがきらめく。

 なにかあるのは間違いない。美希はまだしゃがんでいた壮悟にスマホを押しつけ返し、光った場所を照らしながら指を伸ばす。果たして感じたのは壁のざらつきではなく、つるりとした手触りだった。

「……石や」

「なんだって」

「ここにもう一個あんねん。榛弥兄ちゃんも触ってみ」

 促すとすぐに榛弥は壁に触れ、やがて「本当だ」と驚く。

 存在に気づけなかったのは、石の色が黒く、完全に壁に溶けこんでいたからだ。他の石に比べて埋まっている部分も多く、明らかに目立たないよう工夫されている。

「つまりなんや。全部で石が六個あるてこと?」

「でもトンボは五匹やん。榛弥兄ちゃんが言うとったみたいな、目と同じ色の石に合わせたらええって言うんがおかしならん?」

「いや違う、本来黒に向けなければいけないものを紫に向けていたんだ」

 だから自分の予想は合っている、と榛弥が自分に言い聞かせるように呟くが、黒い目のトンボを黒い石に向くよう動かしても音は鳴らず、手ごたえも無い。

「なんで開かへんのやろ。そもそも壊れとるとか?」

「それはないよ」断言したのは雅太だ。「父さんと母さんは毎日、ここに出入りしてる。いきなり壊れたりしないと思うけど」

「もうめんどくさいし、蹴っ飛ばして開けられへんの。ハル兄のキック力やったらいけるやろ」

「お前は僕をなんだと思ってるんだ。そんなの出来るのはフィクションの世界だけだぞ」

「適当に回しまくって壊すんも怖いしなあ……」

 時間がどんどん削れていくのが苦しい。美希は黒い目のトンボの腹を摘まんで、時計回りに動かしてみる。きりきりと鳴る音がタイムリミットを刻む響きに思えて、背中に冷たい汗が流れた。

 赤い石を過ぎて、白い石も通過しそうになる。

 かち、と。

 今にも消え入りそうな音が耳に届き、美希は弾かれたように手を離した。

「……榛弥兄ちゃん、今の」

「どうした」

 考えるのに夢中で聞こえていなかったのか、榛弥が訝し気に首をかしげる。

「開いたっぽい音してん。一個ずつ順番に石に向けてったらええかな思て動かしたら、かちっていうた」

 しかしいまいち自信が無い。

 なにせトンボは真上の白い石を見て止まっている。黒とは正反対の色だ。ゆえに開けと思うあまり聞こえた幻聴の可能性も否めず、美希は言葉の最後に「多分」と付け足す。

「お前、俺と一緒で耳だけはええよな」

「耳だけてなんやねん」感心しているのだか馬鹿にしているのだか分からない兄に、美希は唇を尖らせた。「他のとこがあかんみたいな言い方せんといて」

「……黒……黒は水……白は金のはずだと思っていたんだが……」

 唸るように独白したあと、榛弥が「そうか」と前触れもなく大きく手を叩く。ぱんっと気持ちのいい音が蔵に響きわたり、兄妹喧嘩は強制的に終了された。

「黒いトンボを白に向けるのは〝一白水星〟だからか!」

「いっぱく……って、さっき言うとった九星? とかいうやつ?」

「ああ。五行説には色や方角、季節が当てはめられるってこの前説明しただろ」

 つい三日前のことだ、まだはっきり覚えている。

「そんな風に九星も五行に当てはめられる。さっきの部屋もヒントの一つだったわけだ。五行の〝水〟に対応するのは〝一白水星〟で、白に向けて手ごたえがあったのはこの〝一白〟から取られてるからだろう」

「あかん、俺の頭こんがらがりそうなんやけど……。えーっと、ほんなら最初の青と、次の黄色は?」

「青に対応する五行は〝木〟だったろ。〝木〟には〝三碧木星さんぺきもくせい〟と〝四緑木星しろくもくせい〟と候補が二つあるが、青を向いていることを考えると、〝三碧木星〟を当てはめたんだろう」

 また〝土〟に対応する九星も二つあるそうだが、黄色に向いていることから〝五黄土星〟を正解の方に選んだのだろうと榛弥は言う。

「ひとまずこのまま続けてみよう。美希、僕の言った通りにトンボを動かしてくれ」

「分かった。じゃあ次、右下の赤い目の子はどっち向けたらええの」

「〝火〟に対応する九星は〝九紫火星きゅうしかせい〟一つしかない」

 つまり紫の石に向ければいいということだ。言われた通りの方へトンボを動かせば、かち、とあの音がした。

「じゃあ最後、一番左の〝金〟だが、〝六白金星ろっぱくきんせい〟と〝七赤金星しちせききんせい〟二つ候補がある。けど目の色と同じ白に向けて不正解だったから」

「もう一個の〝七赤金星〟――赤い石の方ってことやね」

 美希の指先が緊張で震える。

 このまま開けばいいが、もしトンボを回す順番が違っていたらまたやり直しだ。トンボを向ける方向が分かっているぶん楽だとしても、時間のロスになるのは避けられない。

 ふー、と細く長く息を吐いて、白い目のトンボを赤い石に向ける。

 かち、と望んでいた音が鼓膜を揺らして、美希は目を大きく見開いた。言葉にならない喜びを瞳に湛えて榛弥と壮悟を見れば、二人も安堵に胸を撫で下ろしている。

「けどまだ扉動いてへんし、ほんまに開いたんか分からへんよ」

「トンボの間に溝があるのが気になる。ここを外したら取っ手が出てくるとか、それか」

 押してみるとか、と言いたかったのかも知れない。榛弥が説明の途中になにげなく押した直後、がこん、と五角形が凹み、壁の一部も奥にずりずりと動いたのだ。ぎしぎしと聞こえる錆びた音は蝶番ちょうつがいのそれか。突然の音と動きに、美希は呆然と言葉を失くした。

 そのまま押し続けて現れたのは、地下へと伸びる階段だった。

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