第3話 美男美女のたわむれ

編入早々、国宝級イケメンに認定された清貴から見ても、莎莎は完璧な美少女だった。


(かわいい……)


 清貴が素直な感想を思い浮かべていると、


「あのね、実は伝えたいことがあって、ずっと待ってたの」


 自分が可愛いことを自覚していなければ、決して口にできないセリフを、莎莎は計算づくで恥じらいながら告げた。


 普通の男子生徒なら、「ずっと待ってたの」で心臓を貫かれて即死だっただろう。これほどの美少女が自分のためだけに待っていてくれたなんて、この瞬間が人生のピークと言っても過言ではない。


「清貴くんのことが好きです。あたしと付き合ってくれませんか?」


 ”平均よりも顔がいいレベル”の男子生徒なら、かろうじてこのセリフを聞くところまではたどり着ける。だが、莎莎から発せられた「好き」の2文字でやはり死は免れない。


 しかしながら、樺沢清貴は国宝級イケメンだ。

 最後の試練である「付き合ってくれませんか?」を聞くところまで、無事にたどり着いた。しかも余裕の表情で。


 このときの国宝級イケメンの心の内は、こうだ。


(……あ、やっぱり告白か。俺、そこらへんのイケメンより断然イケメンだからな、無理もない。この女子はかわいい。究極の美少女って感じで。ま、タイプではないけどステータスにはなるし、付き合ってあげてもいいかな)


「うん、よろしくお願いします」


 清貴は大きなエナメルの鞄を持ったまま、特に手を差し出すわけでもなく、爽やかな笑顔だけで返答を済ませた。


 そして、このときの冴島莎莎の心の内はこうだ。


(よっしゃあああ、国宝級イケメンげっとお! これであたしの学園生活はカ・ン・ペ・キ♡)


 要するにこの恋は、両者の損得勘定でもってして結ばれたものだった。


 "すこぶる顔が良い者同士の運命の恋”が実ったのだと勘違いしたサッカー部員たちは、一歩も動けずにいた。そして、その衝撃は野球部にまで飛び火していた。


 野球部は重要な練習試合の最中だったが、中断せざるを得なかった。

 今まで誰のものでもなかったマドンナが、人のものになる瞬間を目の当たりにした坊主たちは、まるで役に立たず。全員が地面に這いつくばり、咽び泣いていた。


 近くで活動していたダンスサークルの女子たちも、揃って顎が外れてしまっていた。天然記念物だったはずの国宝級イケメンが、あっさり動物園の国宝級イケメンになってしまったような。


 その場にいた生徒は皆、心にぽっかりと穴が空いたような気分だったそうな。



 --そんな一大事に、星南太郎はといえば。


 圧倒的に睡眠時間が足りておらず、気絶したまま放課後を迎えていた。

 そろそろ、学費を稼ぐために掛け持ちしているバイトの時間だ。


 体内時計でそれを察したのか、星南太郎は唐突に覚醒する。


「は、バイト……!!!!」


 言って目を血走らせ、騒ぎに気付く余裕もなく、一目散に下校した。

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