第一章 音楽室のコイのオバケ
第1話 地底人でも恋をする
会社を経営する日本人の父と、フランス人でモデルの母を持つハーフ。
そんな少女の顔面が悪いはずがなければ、ましてや平凡であるはずもなく、誰が見てもため息が出るほどの美少女だった。
黄色みを帯びた瞳は、ひまわり型の虹彩がはっきりと見えるくらい透明度が高い。
そこへ長いまつ毛の影が落ちるとアンニュイな雰囲気が漂い、見ている者の心をきゅんきゅんさせた。
色素の薄い髪は穏やかにウェーブを描き、ウェストのくびれの位置でわずかな狂いもなくぷつんと切り揃えられている。
そのままでも十分絵になる髪型を、さらにリボンの形を模したヘアクリップでハーフアップにアレンジすれば、たちまち育ちの良さが引き立ち、一国の女王と石ころぐらいの身分差を感じさせた。
その美貌により、高校に入学した時点で美の頂点に君臨することはすでに決まっていた。いや、入学が決まった時点か、または中学を卒業する頃か、もしくはもっと昔、生まれる前から、冴島莎莎はマドンナとして生きていくことが決定していたのかもしれない。
それくらい壮大な物語を感じさせる”美しさ”を纏っているのが、冴島莎莎という少女だった。
顔面の良し悪しは、学園生活でのカーストに大きく影響するのは言うまでもない。
冴島莎莎がこの学園の頂点だとすれば、女王陛下に思いを寄せる
何をするにも役立たずと言われる、166cmの身長 。
教えた途端に嫌な顔をされる、B型。
粋がってパーマに失敗したと思われている、頑固なくせ毛。
ゾンビに間違われるほどの、目元の濃いクマとあかぎれだらけの手。
”最下位の覇者”とからかわれる、常に底辺の学力。
スポーツに分類されるものはほぼ全滅の、運動センスの無さ。
そんな地底人は無謀にも、5年越しの思いをついに彼女に告げることにした。
思えば、長い道のりだった。
冴島莎莎との出会いは中学1の春。学区違いの中学校に通っていた彼女の登校する姿を見て一目惚れしたのが始まりだ。
彼女に出会った瞬間、寂れた通学路が輝いて見えた。そこかしこに花が咲き誇り、身の程をわきまえずスキップしてしまいそうになるほど、胸が高鳴った。
星南太郎が遭遇したときはすでに、彼女は有名人であったので、同級生にその特徴を話すと、すぐに”冴島莎莎”という少女であることが判明した。
それからというもの、地底人は彼女のブログを貪るようにチェックした。
自分のような身分では近寄ることはおろか、実際にこの目に写すのも恐れ多く、ブログを読むことだけが唯一、冴島莎莎とコミュニケーションを取る手段だった。
とはいえ、一方的に訪問して読んでいるだけなので、レスポンスはもちろんない。
コメントを残すわけでもなく、ただひたすら彼女の動向を追っていたある日。それはちょうど、地底人が中学卒業後の進路に迷っているときのことだ。
そのちっさい迷いを、一瞬で吹き飛ばすほどの威力を持った記事が投下されたのだ。
見た目に加え、頭も良い彼女が進路先に選んだのは、金の使い方が超優雅な私立高等学校・
当時の地底人の学力では、己以外の人類が滅びない限り、到底入学できたものではない。さらに、超優雅なゆえに私立の中でも群を抜いて学費が高い。バカ高い。狂っているとしか思えないほど高い。
だが、地底人は諦めなかった。
何としても冴島莎莎と同じ高校に入学し、同じ時を過ごすのだと心に誓った。そしていずれは思いを告げ、あわよくば……
血の滲むような努力の末、地底人はギリギリのラインだったが合格を勝ち取った。
そして現在。定期的に訪れる学力テストに加え、目玉が飛び出しそうになるほど高い学費をなんとかクリアしながら、血を吐く思いで今日まですがり付いてきた。
高校生活2年目を祝して、いざ、告白-……!
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