人間の女子が相手してくれないので、武士口調のオバケと永遠の愛を誓いました。
五味零
プロローグ
ここは、名門・
時刻は間もなく午前0時51分になる頃だった。
いつからか、この学校にはある怪談話が広まっていた。
午前0時51分に音楽室で暗闇に呼びかけると、オバケが現れるという。
そのオバケを見た生徒は、ある者は「武士みたいだった」と言い、またある者は「鯉のオバケ」などと言った。
まるで統一感のない証言だが、1つだけ、共通していることがある。それは、オバケの見た目が「可愛いかった」という点だ。
その話が本当かどうか確かめるため、とある男子生徒が音楽室のドアの前に立っていた。
男子生徒は”とにかく女子と付き合いたい”という大雑把な欲望を抱えてここまでやって来た。建て付けの悪い引き戸をこじ開け、窓際に寄せられたピアノの前まで来て立ち止まる。
そして、机がずらりと並べられた教室内を見渡し、一言。
「コイ!」
音を吸収するつくりの音楽室では、その声はすぐに消えた。
窓の外で静かに揺れる木々のシルエットが視界の隅に映る。
何も起こらないことに、男子生徒が内心ほっとしていると。
「呼んだか?」
誰もいないはずのすぐ後ろで声がした。
「え……」
男性生徒が振り返ると、ピアノの椅子にふわりと舞い降りる少女がいた。
その外見には何か違和感を覚える。よく見れば、少女の体は透けているではないか。
「何の用じゃ?」
聞きなれない武士口調で、少女は続ける。
「ひ、ひぃいいいいあああっ」
不可解な存在を目撃してしまい、男子生徒は悲鳴を上げる。そうして一目散に音楽室から走り去った。
「何じゃ、”来い”というから来てやったというのに」
唇を尖らせ、開け放たれたままの引き戸を見つめた。
その少女はもう長いこと、この音楽室に居座っているオバケだ。
ふいに鍵盤部分に手を伸ばすも、その手は何にも触れないまま、ピアノをかすめてしまう。
ため息を吐き、雲から顔を出した月を窓越しに見上げた。
「誰か、ここから出してくれんかのう」
言って、今夜もいたずらに呼び出されただけの少女は、すっと姿を消した。
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