記念すべき第一打ち合わせは散々……
そこには主人公何人かのイラストが2カット載せてあった。できれば今すぐにでもここにアップしたいのだが、実際に始まるまでは待って欲しいということで伏せておく。そのイラストを見て、私は激しく興奮したのを今でも覚えている。
主人公の男性がかっこいい! そしてヒロインの女の子もめちゃくちゃ可愛い……。こんな人達が自分が書いた作品を演じてくれるのか、そう思うだけで今まで感じたことのないワクワク感があった。有名な俳優さんが自分が書いた脚本を演じてくれるというのはまさにこういうことではないだろうか。
作画の方は●●先生で(これもまだ待てと……早くオープンにできるようになってほしい)とても綺麗でシャープな絵を描かれる方が担当してくださるのだ。いくつか他の作品を拝見したが、どれも丁寧で、一気に私はこの先生のファンになってしまった。辛くなった時はこのイラストを見てテンションを上げるようにしている。(というかこれから辛くなるのだが……)
何はともあれ、まずは書いてみようということで書いてみた。最初の流れは決まっており、テーマもある程度決まっていたので、比較的書きやすかった。自分なりに色々考え、一つの話を完成し、編集者のI氏に提出した。そしてその返事を緊張しながら待った。
返事はすぐに来た。連絡は基本LINEで行い、完成品はwordを利用しメールで送る。まだ一回も対面で会ったことのない人と仕事を開始するというのは初めての経験だったが、今では珍しくないらしい。こうやって私も化石人間になっていくのか。
打ち合わせはLINE電話で行われた。
編集者のI氏の第一声はこうだった。
「いやー、安心しました。木沢さんは初めてですよね? 初めてとは思えない出来ですよ」
めちゃくちゃ嬉しかった。にやにやしているのを隠しながら、いやー、それほどでも、と言いながら、その後I氏のトーンが変わった。
「それじゃ、上からいきましょうか」
ここからが本番だった。セリフの長さ、語尾、ストーリーの妥当性、シリアスとギャグのバランス、世界観がファンタジーなのかSFなのか、これは今後どういう展開になっていくのか、細かい修正をいただき、もし赤ペンで直していたら、結局ほぼ全てが真っ赤になっていた。
(ほとんど全部直されたんじゃないか……!?)
これが最初の感想である。
なんか褒められたのか、ダメだったのかよくわからない。まるで甘いあんこと大量の唐辛子が絶妙にまざりあった饅頭を思いっきりほおばったような印象、これが記念すべき第一打ち合わせである。
しかし振り返ってみると、いわゆるストーリーの軸はほとんど私が作ったものを利用しながら、枝葉の部分をごっそりとトリミングしたような形になった。
私が知っている編集者はこのI氏のみなので、一般的にはどうなのかは存じ上げないが、このI氏、まだまだお若いのだが非常に話し方がうまい。
私は元々ガラスのハートであり、しかもこういった作品を他の方から指摘されるというのは慣れていない。ストレートに指摘をされたらきっとメンタルがもたなかっただろう。しかしそこはプロ、決して「ここがダメ」とは言わない。
おそらくここを削った方がいい、と先方の頭にあるのだろうが、そう言わずに「こことここのエピソードはどちらか一方にした方がいいかもしれません、少しテンポが悪くなってしまうので。すると削るとしたらこっちでしょうかね」という風にうまーく、ガラスにひびを入れないように言ってくださるのだ。
こっちが「こんな展開考えてるんですよ!」とか言うと「良いですね〜」と本心ではどう思ってるかはわからないが、とりあえずノせてくれるのだ。こちらのアイデアに全然納得してない内容のときは黙って、相槌のみ。LINE電話なので、顔は見えない。今なら大体わかる、「これは全然賛成じゃないんだろうな」と笑。
作者が馬だとすると、編集者は手綱なんだろう、ということを改めて実感した。うまくのせながら、適度にブレーキをかけて、体裁を整えていく。これらのテクニックを編集者の方は訓練されているのだろうか?
最初のうちは、こんなやりとりも楽しかった。
なにせプロの方が自分の作品にコメントをしてくれる。そもそも有料添削にお願いしたら、原稿用紙5枚なら7000円くらいかかる。それをただでやってくれるのだ。しかもこの編集者のI氏はかなりの映画、漫画、ドラマを網羅していて、それは時代を問わずたくさんの作品を知っている。展開のテクニックや、話の持っていき方は「もう自分で書いた方がいいんじゃないか」と思われるほど見事なネタを持っている。そんな人に指導いただけるだけでありがたい、そう思っていたし、もちろん今でも思っている。
しかしその後、別の感情が生まれ始めたのだ。
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