【奮闘記】漫画原作者のつぶやき

木沢 真流

運が良かった

 とにかく特殊なケースだったようだ。

 通常であれば、漫画原作をやりたい、と思ったら、1話を作って出版社などに売り込み、会議で話し合ってもらい、この話はこれから面白くなりそう、と思ってもらえたら連載へと動き出す、という。

 しかし私の場合、もうすでに大まかなストーリーと方向性、主人公まではある程度決まっていて、そこから先を書いて欲しいという依頼だった。

 これは漫画原作など初めて経験する私にとって、実に都合の良い設定だったと言える。

 まず第一に、作画の人を探さなくていい。そしてキャラクター設定などのモデルがもうあるので、それを利用しながら自分なりにアレンジしていけばいい。これらを全部一からやるとなったら、かなり労力である。

 いくつか小説との違いを知ることになったのでそれを述べる。


<小説との違い>

1 文字と絵

 当然だが、絵を見せることができるので、スタイルなどの描写は言葉で書かなくていい。言葉で書くことの難しさと、優位性は拙作「小説は懐中電灯」https://kakuyomu.jp/works/1177354054887024909/episodes/1177354054887025082

で飽きるほど述べたが、漫画では色の描写、スタイルなどの美しいの描写はいらなくなる。

 一方勝手に書いてもらうのではなく、実際の絵を原作者が決めなくてはいけないので、かなり細かいところまでキャラクターの指示を出す必要がある。例えば、身長は156cm、スリーサイズ、髪の長さはどこまでか、色、目の大きさ、好きな服、笑顔が多いのか、などなど。参考に見せていただいた主人公の特徴は私が今まで小説でなんとなく思い描いていた主人公像より数倍詳しく、細かく設定されていた。


例)

 身長 165cm/体重 52kg/F カップ 体重よりもムチっとしたフォルム。外見は地味でおどおどした印象の見た目。ちゃんとしたら可愛くなりそうなタイプで、巨乳でスタイルがいい。途中で前向きになるエピソードを入れてイメチェンするかもしれないので、最初は髪長めの方がいいかもしれませ ん。体のラインがわかる服装。


 また、写真などをどんどん積極的に使っていい。例えばこんな感じ、とネット上の写真をそのまま貼り付ければその方が言葉での説明より具体的だし、すぐわかる。途中で現れる人物も思い切って芸能人を持ってきて、この方をもう少し小さくした感じ、目を鋭くいじわるい感じで、と言うふうにした方が伝わりやすい。

 これを続けていると言葉での描写力は落ちるのかな、なんて高度な事を考えたりもしたが、今はそんなことを言っている場合ではない。


2 時刻をしっかり設定する

 小説を書くとき、「午後4時頃」などとは詳しく書くことは少ない。太陽の位置、影のでき方、まわりの様子(学校帰りの生徒が多ければ16時くらいか)などでそれとなく知らせていくことが多いだろう。しかし漫画原作は作画の方が困らないよう、しっかりと18時頃で、日はまだ落ちていないが、街灯はもうすぐつくころ、と言うふうに具体的にしっかり指示を出さなければいけない。

 絵は読者の想像によって作られるのではなく、一つの答えをしっかり提示しなければならない。その点はどれだけ自分が小説という世界でぼんやりとイメージしていたかを思い知らされるきっかけになった。ここがまた原作と作画を異なる人が作る、という点ならではかもしれない。


3 会話がベースで動きを作るように

 小説の場合は風景を流したり、それを見ている人の感情を入れるなどすることも多いだろう。しかし漫画は基本会話をベースに、舞台も出来るだけ動きがある方がいいようだ。確かに風景を何コマも見せらても、それが主人公が一生かけてたどり着いた目的地ほどの価値のあるものでなければ、読んでいる方が飽きてしまうだろう。そして言葉よりも絵が大きなウエイトを占めるので、動きがあった方がよいのだ。


 とまあ色々編集者のI氏から説明を受けたり、いただいた資料を読んだりしながら、ふむふむと思っていると、とある資料に目が止まった。そして私は胸の鼓動が高まるのを感じていた。

 それが作画の方が作ったキャラクターデザインだった。

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