強引な女(2)
彼等は部屋に戻った。
そして桂が聞いた。
「ところであのスマホ、お前のか。」
彼は机の上にあるスマホを指さした。
かなり古いもので見た目はボロボロだった。
画面はざらざらでとても見にくい。
「まあ、私のだけど、本当は親父のものだよ。」
「昨日から充電器につけっぱなしだが大丈夫なのか?」
「充電しながらでないと使えないんだよ。」
桂はその充電器を見た。
コードはビニールテープでぐるぐる巻きになっている。
今時のスマホは特定の場所に置けば充電は済む。
しかも早い。
「いつのものだ、年代物だぞ。」
「知らないよ、死んだ親父のものだから。
私は自分のものは持ってないし。一応充電しながらなら使えるよ。」
「外で使えなきゃ意味ないだろう。」
「……そりゃそうだけど。」
桂はため息をついた。
「一つ貸してやる。」
桂は机から一つスマホを出した。
「なんだ、あんた二つも持ってるのか。」
「仕事上いるかもといくつか用意してある。」
「すげえな。」
ミツキはそのスマホの画面を開いた。
「綺麗だ。」
「そりゃそうだ、お前のあれは見た目も酷いが、
画面もザラザラだ。」
ミツキは目を輝かせてスマホを触っている。
「変な事に使うなよ、
ところでそのスマホって住所録とか何かのデータは残っているか?」
ミツキは首を振った。
「ううん、全然なかったよ。見ても良いよ」
ミツキは古いスマホを指さした。
「暗証番号は。」
「1が7つ。」
ひどい暗証番号だ。
桂はため息をつくと古いスマホを起動した。
しばらくそれを彼は触るが彼女の言う通り
大事な物らしきデータは何もなかった。
ネットの履歴を見る。
未戸田に関する情報、
そしてかなりの数の探偵事務所の検索の後があった。
彼女なりに必死に調べたのだろう。
「まあこれは俺が預かっておく。
古すぎて充電中に爆発したらたまらんからな。」
と彼は古いスマホを机にしまった。
その時、桂のスマホが鳴った。
画面を見るとミツキが持っているスマホの番号が出た。
彼女を見るとにやにやしながら桂を見ている。
「出てよ。」
桂は少しばかり不機嫌そうな顔をしてそれを受けた。
「もしもし、」
「あんたが私の電話一号だ。」
ミツキが邪気のない顔で笑った。
少しばかりあきれたが、
それでも彼女には嬉しい出来事だったのだろう。
彼はその番号に北川ミツキと登録した。
「未戸田の娘は麻衣。一般人でほとんど情報は無い。
唯一この写真だけがネットにあった。」
桂はその写真をミツキに見せた。
それは麻衣が子どもの時の写真だ。
小学校に上がるぐらいの年齢だろうか。
満面の笑みの未戸田夫婦の横にひっそりと立っている。
黒髪の色の白い丸い顔立ちの子だ。どことなく生気がなかった。
「やっぱり日本人だな、私が覚えている顔っぽい。」
「それでな、5歳の時に心臓の手術で一年間入院をしている。」
ミツキは首をひねった。
「記憶の中では病院に行ったとか苦しいとかそんな覚えはないよ」
桂はミツキに聞く。
「話したくないかもしれないが、お前が覚えている事を詳しく聞きたい。」
「そうだな……、
何となく記憶があるのは2、3歳の頃から。
親が家に帰った途端に蹴られたよ。」
「誰にだ。」
「母親だけど父親も酷かった。
今思えば良く死ななかったなと言う感じ。」
「あの夫婦は昔からテレビとか出ていたけど、
その陰でストレスをお前にぶつけていたのかな。」
「多分そう。」
「それで5歳ぐらいかな、乱暴をされていた時に記憶が真っ暗になった。
それが一応最後。」
ミツキはため息をつく。
「嫌な話をさせたな。」
「ううん、良いよ。」
ミツキは遠い所を見た。
「それでも子どもって親が好きなんだよね。
親に叩かれても自分が悪いと思っちゃう。可哀想すぎる。」
「他に覚えている人はいるか。」
「いるよ。」
ミツキは目の前にある紙にメモをする。
「多分お手伝いさんだと思うけど、うらきよしえ、と言う人。」
「住所とか分かるか?
いや、分からんだろうな、5歳ぐらいじゃあな。」
「うん、分からないけどよくお手伝いの会社に電話していたよ。
すみれヘルパー紹介所と言っていた。
私はうらちゃんと呼んでた。」
桂は調べ出す。
「うらちゃんだけはすごく優しかったよ。
よくホットケーキを作ってくれた。
小さい物を3つ重ねてさ。
メープルシロップをかけて、美味しかったなあ……。」
ミツキが呟いた。
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