第34話

「..........」


 朝、目が覚めるといつもの天井とは違った天井が見えた。


 ..........あぁ、確か雪奈と香織さんに流されて俺は結局家に泊まることになってそれから..........。


 下着一枚ですやすやと寝息を立てて幸せそうな顔をしている幸奈の前髪を弄ると猫のように掌にぐりぐりと押し付けてくるので、撫で続けてあげると幸せから安心したような顔をしてまた深い眠りにつく。


 雪奈の可愛い寝顔をもう少しだけ見ていても良かったけれどきっと香織さんは朝ご飯をもう作り始めているだろうし、急に泊まらせてもらったのだからせめて何かお手伝いはしたいと思い、離れがたい気持ちを残しつつ最後に頬へとキスをして部屋を出た。


 顔を洗わせてもらってある程度寝癖を整えてから、キッチンへと顔を出すとやはり香織さんは起きていて、朝ご飯準備をしていた。


「おはようございます、香織さん」

「あ、おはよう幸人君。幸人君は早起きだねー」

「そうですか?」

「うん。私みたいな年寄りのおばさんは朝早く起きちゃうんだけれど幸人君はそうじゃないでしょ?幸人君ぐらいの年だったら多分、お昼近くまで寝てるかも」

「お昼近くまでは流石にないですけれど、家だと俺も結構遅いですよ。それと、香織さんは年寄りなんかじゃありません。凄く綺麗なお姉さんだなぁーって、いつみてもそう思いますよ」

「っ!?幸人君、そういうことを気軽に言っちゃいけないダメだよ?本気にしちゃう子だっているんだから」

「…。そうですね。ですけれど、香織さんはとっても綺麗なのに自虐をしていたのでどうしても言いたくなってしまって」

「っ、そ、そう。ありがとうね」

「はい」


 香織さんは顔を背けると、ブツブツと何か言った後一つ咳を吐いてからまた俺に向き直った。


「朝ご飯、作っちゃうから幸人君はソファーでくつろいでいてね」

「いや、俺も香織さんのお手伝いをしたくて」

「大丈夫よ、気にしないで」

「でも、急に泊まらせていただいて何もしないわけにもいきません」


 真っ直ぐ香織さんの目を見つめると、意思が変わらないことが分かったのか苦笑してから「わかったわ」とそう言った。


「じゃあ、そうね。幸人君にはお味噌汁を任せようかしら」

「分かりました」


香織さんと二人並んで作業していく。こうして二人で料理をすることは珍しいっていう程でもない。


 この家に泊まることも何度かあったからその度に料理のお手伝いをしていたから、大体どこに何があるのかは把握しているしお互いの邪魔にはならないくらいには息が合っている。


 ..........一応あいつはいないらしいが、あいつの分の朝ご飯を作った方が良いかと聞くと作らなくていいらしいので、手間が省けて良かった。


 雑談をはさみつつ、作り終えるころになってリビングへと顔を出したのは、雪奈だった。


「おはよう、雪奈。もう少しで朝ご飯作り終えるから顔洗って待ってて」

「う、うん」


 雪奈は少し恥ずかし気にした後に、洗面所へと向かっていくのでその間に作り終わった出来立ての朝食を盛り付けてテーブルへと運ぶ。


「..........幸人君って、本当になんか働き者というかしっかりしているというか。いい子過ぎて逆に困っちゃうわ」

「そうなんですか?」

「そうだよ、幸人は格好良くて優しくて完璧すぎ。もっと私に甘えるべきだと思うし、本当なら私が家事を手伝うべきなのに」

 

 いつの間にか帰ってきた雪奈が抱きしめてくるので頭を撫でてあげるとふにゃっとした笑みを浮かべる。


「別にいいんだよ。好きな人には尽くしたいって思うのが普通じゃん?」

「っ!!もう、すぐにそう言うこと言う!!大好き」


 雪奈は何故か切れ気味にそう言って香織さんの前だからか頬へと軽くキスをしてくる。


「はいはい、イチャイチャするのは私がいないところでしてね。それにせっかく雪奈の為に作ってくれたのに冷めちゃうわよ?」

「そ、そうだった。早く食べよ?」


 雪奈は急いで席に着いて、手を合わせる。


 俺と香織さんもそんな雪奈の様子に苦笑しつつ、同じように席に着き手を合わせる。


「「「いただきます」」」


 料理を食べつつ、雪奈の反応を見る。


「ん、このお味噌汁美味しい。幸人が作ってくれたお味噌汁?」

「うん。雪奈の口にあったなら良かった」

「すっごく美味しいよ。毎日でも作って欲しいくらい」


 そう言って恥ずかし気に頬を染める。確か「毎朝俺の味噌汁を作ってくれ」みたいなプロポーズの言葉があるけれどそれを意識したのかな?


「勿論いいけれど、その話はまたゆっくり、ね?」

「う、うん」


 雪奈が恥ずかし気に顔を逸らしたのでその様子を微笑ましい目で見つめていると香織さんが咳ばらいをしてこちらをじっと見つめてくる。


「私もいるんだけれどなぁ」

「す、すみません」

「良いけれど、少しだけ控えてくれるとありがたいかもしれないな」


 付き合ったばかりで浮かれているとは言え、見境が無さ過ぎたな。


 その後は仲良く三人で雑談をしつつ、朝食を終えた。


 





 


 


 


 

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