第33話
「お邪魔します」
「いらっしゃい、幸人くん。上がって」
「失礼します。これ、良かったらどうぞ」
「そんな気を使わなくてもいいのに。何度も家に来てるんだから」
擬似的プロポーズをして、雪奈が落ち着くまでにかなりの時間がかかったが、なんとか落ちつきを取り戻して雪奈の家に着いた。
久しぶりに玄関を開けると、
リビングに通してもらい、席に着くとお茶菓子とお茶を用意される。何度も来ているはずなのに本当に結婚挨拶をしに来たみたいでさらに緊張してきた。
香織さんが席に着きお互いが向き合い、香織さんに雪奈とお付き合いをしていることを話そうと思っていたら頭をテーブルすれすれまで香織さんが下げた。
「ごめんなさい、幸人君。私のせいで幸人君に不快な思いをさせてしまって」
「.........えっ?」
いきなりの事にびっくりしてしまったこと、雪奈との今後についてどう話を考え口に出そうとしたタイミングだったこともあり上手く状況が飲み込めない。
とりあえず頭を上げてもらうために、何とか落ち着かせてどうして謝ったのかを聞くことにした。
「私の教育が間違っていたから幸奈に浮気なんてさせてしまって.........本当にごめんなさい」
「え?いや、それは香織さんのせいじゃないです、絶対」
どうやら、幸奈の浮気の事をかなり気にしているみたいだ。だけれど、絶対に香織さんのせいなんかじゃない。
「だって、同じように育てた雪奈はこんなにいい子じゃないですか。幸奈は自分の意思でああなってしまっただけです」
「それは........でも、親としてしっかり幸奈の異変に気づけなかったから、やっぱり私が悪いわ」
「それは彼氏なのに幸奈に浮気させてしまった俺の問題ですから。幸奈の事をしっかり見ていなかった俺が悪いです。確かに浮気した幸奈は絶対悪ですが、今思えば多少しつこく聞けばよかったなと思っていますし。ですからここはお互いが悪かったという事にしませんか?」
俺がそう言うと香織さんは少しだけ困ったような顔をして、苦笑した。
すみません、こういう言い方は断れないですよね。
「分かりました。そうしましょう。でも本当に今回の事はごめんなさい」
「俺も至らないところがありました。すみません」
まぁ、口ではこんなことを言ったもののあの時出来る限りの事はしていたと今でも思っているし、幸奈が一方的に悪いとは心の中で思ってはいる。勿論、赦してはいないし、赦す気もない。出来る限りもう二度と関わりたくもない。
「じゃあ、もうお母さんも幸人も暗い話はこれでおしまい。これからは明るい話しよ、ね?幸人」
「う、うん。そうだね」
隣で静かに聞いていた雪奈は俺に身を寄せてそう言って、ニコニコと笑う。
「あの、香織さん。聞いてくれませんか?」
「どうしたの?」
香織さんも大体の事情は察しているのか、笑って俺の口から言葉が出るのを待ってくれている。
「幸人、頑張れ。頑張ってくれたら後で良い子な彼女がいっぱい甘やかしてあげるから」
「雪奈、そういうことは香織さんの前では言わない」
「んふふ、はーい」
さて、頭を切り替えて深呼吸をして姿勢を正す
「雪奈さんと付き合うことになりました。これからよろしくお願いします」
「はい、色々至らないダメな娘ですがこちらこそよろしくお願いします」
お互いに頭を下げ合って、やっと重苦しい空気が徐々になくなっていった。
そこからは昔の話をしたり香織さんの手料理をいただいたりして帰ろうかとも思ったが雪奈の「お泊りして行って?今日はお姉ちゃんがいないから。私、すっごく寂しい」という言葉と「幸人君が家にいてくれたら嬉しいなー。幸人君は将来、息子になるかもしれないからね、もっと仲良くならないと」と言われてしまい、 この日、俺はなんだかんだ押し流されて結局雪奈の家に泊まった。
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