第32話

 雪奈と付き合い始めて二日ほどが経ち、明日は雪奈が家にお泊りに来る日になっている。

 

 隣で俺の腕に自信の腕を絡ませている雪奈は、そのことについて考えているからなのかずっとニコニコと幸せそうな顔をしてくれていると思ってしまうのは自意識過剰だろうか?


 でも、事あるごとに「明日のお泊り、楽しみ」と言われればそう思ってしまうのも無理はないと思う。


 だが、俺は今お泊り以上に緊張することがある。


「大丈夫だよ、幸人。多少重い話だけれど私たちの交際を反対するー、なんてお母さんは絶対にしないから」

「それは..........そうだと思うけれど」


 今日、俺は雪奈のお母さんに付き合ったことを報告することになった。


 事前に雪奈が幸奈とどうして別れたのかを説明してくれているみたいなので、多少マシだけれどやはり気まずいというかなんといえばいいのか複雑な心境である。


 雪奈とはこのまま順調に進んでいって結婚までしたいと考えているからどの道いつかは絶対に話さなければいけない話だったので、別にいいのだけれど緊張するものは緊張するのだ。


 俺の緊張している様子を見た雪奈は、心配げに見つめてこう言ってきた。


「..........もし幸人がどうしても嫌だったら、他の日でも全然いいよ?」

「..........いや、大丈夫だよ。雪奈とは将来、結婚したいって思ってるから早めに言っておくに越したことは無いと思うから」


 雪奈のお母さんにも小さい頃は良くお世話になったし、幸奈とまともに付き合っていた時はそこそこの頻度で会っていたからきっと大丈夫だろう。


 一度大きく深呼吸をして心を落ち着かせて、隣を見てみると先ほどまで立っていた雪奈が居なくなっていた。


 どこに行ったのかと思い後ろを見てみると、道の真ん中で突っ立って瞳から涙をっ零していた。慌てて駆け寄り、涙を拭いて事情を聴いてみる。


「どうしたの、雪奈?具合が悪くなった?」

「…だ、だって、幸人がわ、私と結婚まで考えてくれているって知って嬉しくて涙が出てきちゃって。ふ、不意打ちでプロポーズまがいな事しないでよ。ずるいよ。そんな何気なく言わないでよ。心の準備させて!!」


 そう言うと雪奈は俺にコアラのように抱き着いてきてマーキングするように匂いを擦りつけてきた。


 今思えば、確かにあの言葉は一種のプロポーズのようなものか。


 ..........言った時は別に何とも思っていなかったが、改めてそう考えると俺も恥ずかしくなって顔が真っ赤になってしまう。


 そこから落ち着くまで数分かかり、雪奈が落ち着くまで待ってからまた歩き始めた。


 

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