第31話 親

 最近、幸奈の様子がおかしい。


 仕事が忙しいからという理由で自分の娘なのにしっかりと把握しきれていないのは親としてどうなのだろうかという考えと、娘ももう高校生なのだから隠したい事の一つや二つくらいあるだろうから過干渉にしすぎるのもどうなのかという葛藤が生まれている。


 幸奈は幸人君と付き合っているのだから親には余計関わって欲しくはないだろうなとそう思う。


 幸人君。


 幸奈と雪奈の幼馴染で、最初に私が会ったのは二人が小学生の頃だったかしら?


 幸人君はあの頃から小学生らしさがない礼儀正しさを身に着けていて正直最初は面食らってしまったのを今でも覚えている。

 

 何でも幸人君は幼い時にお母さんが亡くなっているらしく色々あってお母さんの妹である絵理さんに躾けられたと聞いている。


 一度、絵理さんと会ったことはあるが幸人君があの年であそこまで礼儀正しさを身に着けている事にも納得してしまう程の振舞い方だった。


 幸人君と幸奈、雪奈は順調に仲良くなっていって、特に雪奈は幸人君に懐いていたわね。幸人君と遊んだ後は必ずと言っていいくらいには、幸人君の話をずっとしていた。


『今日ね、幸人がすっごく格好良くてね..........』

『はいはい』


 なんて会話は数え切れない程したな、凄く懐かしい。


 勿論、雪奈だけじゃなくて幸奈もほとんど毎日と言っていい程幸人君の事を話していたから食卓や家族で会話の中で幸人君の話題が出ない日はないくらいだった。


 こんなことを言ってしまうのはどうかと思うし、母親失格だなと思うけれど娘たちと同年代だったら幸人君に恋をしていたと思うし、誰にも渡さない様に毎日隣にいたと思う。


 あれだけ優しくて気を遣えて格好良かったら仕方がない。


 .........あくまでも、同年代だったらの話。うん、だから別に幸人君に恋愛感情を抱いているわけではない。息子のようなものだと言ったほうがいいと思う。幼い頃から見てるし、大人びているとはいえまだ子供だったから面倒は見ていたから。

 

 まぁ、その話はいったん置いておくとして幸奈と雪奈のどちらかが幸人君と将来結婚するんだろうなという事はなんとなくわかっていた。


 そして私が思った通り幸奈が幸人君と付き合い始めた。


 あれだけ幸人君の事が好きだった雪奈は泣いてしまったり苦しそうにしていて少しだけ可哀想だったけれど、最終的には二人の事を笑顔で応援していて雪奈も成長したんだなとあの時は感心した。


 喧嘩をしたり言い合いをしたこともあったけれど、順調に幸奈は幸人君と仲を深めていき、もしかしたら高校を卒業したタイミングで結婚もするのかな、なんて思っていたのだが.........最近、どこか幸奈の様子がおかしい。暗いような、睡眠もとれていないようだし。


 喧嘩でもしたのだろうかと思いもしたが、そうではないようだし一体何があったのだろう?


 幸人君絡みじゃないことなのか?もう高校生だし将来に不安でも抱えているのだろうか?もしかして.........虐め、だったり。


 いやでもそれは、幸人君がいるだろうからきっとないだろうし。

 

 でも、一度しっかりとした話し合いの場は設けた方がいいと思う。


 うん、そうね。そうしましょうと立ち上がった時、雪奈が家に帰ってきた。


「ただいま」

「おかえり」

「ねぇ、お母さん」

「うん?どうしたの、雪奈」


 雪奈がイスに座った為、私もそれに続くように椅子に座りなおした。


 この後に聞く話がどんなものなのか全く想像もせずに。

 

 

 



 



 


 


 


 


 






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