第30話 吐き気
頭がものすごく痛い。
ズキズキと耐えられないほどの痛みが襲ってくるのと同時に、昼食で食べたお弁当の中身が全て体外へと出されてしまう。
「お、おえぇぇ.........、む、むりぃ。気持ち悪いよぉ。おっ、おぇ」
込み上げる嘔吐感に抵抗できずに、そのままトイレへと吐き出す。
『好きです。俺と付き合ってください』
『うん、勿論だよ。私も大好きだよ』
思い出したくないのに、勝手に先ほどの光景がフラッシュバックする。
幸人が雪奈へと告白してその後、あの二人は........。
あの二人の幸せそうな雰囲気、そして私がいることを理解しているんじゃないかと思ってしまう程の濃厚な見せつけるようなキス。
私はそこで耐えきれずにその場から逃げ出して、今こんなところで惨めに蹲って便器に向かっている。
「おぇ.........」
お弁当の中身をすべて吐き出し、胃液のツンとした匂いに顔を思わず顰めて更に自分が惨めになるも、幸人と雪奈のキスを思い出して嘔吐いてしまう。
体はガクガクとどうしようもなく震えてしまい、歯がガチガチと音を鳴らす。
「寒いよぉ、つらぃ、ゆきと、ゆきとぉ。助けて.........タスケテ」
こんな時辛いとき、誰よりも頼りになるのは幸人だった。私が辛いときは何も言わずとも察してくれて隣にいてくれた。
そんな彼を手放したのは愚かな私。
これが罰なんて事は十分理解している。
私が幸人へした罪はこんなものでは帳消しに何て出来ない。もっと苦しまなければいけないことは理解している。
けれど、やはり私は弱くてどうしようもなく心が弱い人間だから縋ってしまう、救いを求めてしまう。自分で歩き出そうだなんて思えなくなってしまう。一歩を踏み出せない人間。
寒さと気持ち悪さ、頭痛に耐えながらも幸人へと手を伸ばし続けるがその手はいつしか下ろされる。
もう私は幸人の隣を歩くことが出来ないことがほとんど確定したと言っていいからだ。
雪奈が幸人の事を私のように手放すなんて考えることはできないし、あの様子を見ている限りでは一生離れることは無いだろう。
その事実を再確認して私は呆然として、徐々にまた寒気が襲ってきてガクガクと体を震わせる。
「私.........どうすればいいんだろ」
あぁ..........あの頃に、戻りたいな。
幸人と楽しく幸せに過ごしてた恋人だったころへ。私が笑ったら幸人が笑い返してくれる、毎日用事もないのに通話して、一緒に登下校して、誕生日を祝って、記念日を祝って、二人で思いを確かめ合っていたあの時に。
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