第25話 一歩手前

 雪奈が幸人とのデートを終えて家に帰ってきたのはさっきの事だった。


「私.........本当に何してるんだろう?」


 外からの光で照らされている暗い部屋の中、ポツリと私の口からそんな言葉が漏れた。


 私が雪奈と幸人がデートをするという情報を得たのは、皮肉なことに深夜にいつも通話している二人の会話からだった。


 雪奈と幸人はあの日から毎日仲良さげに通話をしている。多分今日も、デートの事を楽し気に振り返るのだろうなという事が容易に想像がついてしまう。


 二人の楽しげに話す姿。


 映画館から出た後は手も繋いでいた。


 ゲームセンターでも楽しげな姿を見せていたし、幸人は雪奈にプレゼントをしてあげていた。一緒にプリクラも撮っていた、何故か二人の間には妙な間のようなものがあった気がしたけれど、それすらもどうも甘く見えて。


 わたしは耐えられなくてその場から逃げて家に帰った。


 雪奈はどうやら一緒に夜ご飯も食べてきたようで帰るのがかなり遅かった。


「はぁ.........」


 そもそもこういう気持ちになるなんて事は重々承知したうえで2人の尾行を始めたのに今更どうして私はこんなドロドロとしてもやもやとした心を抱えて一人蹲っているのだろう。


 ..........寂しい。

 

 ..........辛い。


 ..........悲しい。


 全部、全部幸人を裏切った私のせい。


 大人っぽい、同年代の私からみて完璧な幸人に対して劣等感を持って幸人へと追いつこう、隣に入れるような立派な人になろうという努力をせずに、楽な方へと転落していった当然の報い。


 幸人の嫉妬してくれる顔や悲しそうな顔に興奮して、ダメな先輩で自分の承認欲求を満たした自己中心的な考え。


「幸人、聞こえる?」

『うん、聞こえるよ。雪奈』


「っ!!」


 ビクッと体が震えて思わず悲鳴に近いような声を上げそうになるがギリギリ堪える。


 今日もやっぱり二人は通話をするようだ。


「幸人、今日はありがとね。私のご褒美の為に一緒に映画見てくれて」

『いや、俺こそありがとね。雪奈と一緒にいられて楽しかった』

「なら良かったぁ。私も勿論楽しかったよ」


 薄っすらと聞こえてくる二人の会話。耳を塞いでもどうしてもそちらに意識を向けているからか聞こえてきてしまう楽しそうな会話。


 二人はそのまま映画の話をして、そしてプレゼントしてもらったぬいぐるみの話をしている。


「このくまさんが幸人だったらいいのになー..........」

『そ、それは..........』

「あー、でももし隣に幸人がいたらプリクラを撮った時みたいに、頬にキス、しちゃうかも..........なんてね」


 ..........え?


 時が止まったように私の脳内が真っ白になって何も考えられなくなる。


『そ、それは..........』

「ふふっ、応えづらかったよね?ごめん。でもいつかは頬じゃなくてほんとのキスしようね?幸人の心の整理が終わるまではこれで我慢するから」

『..........うん』


 否定しなかった幸人の声を聞いて段々と私の脳が動き出して内容を理解しだすと、体が段々と寒くなり涙が零れた。


 嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ、 嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ。


 幸人と雪奈がキスをしてその先の事をしている所をどうしても思い浮かべてしまい頭を搔きむしりどうにか追い出そうとするもしつこくそこに居続ける。


 先輩とキス以上の事、入れること以外はしてしまってる私が嫌がって頭を掻きむしって涙を流すなんてしてはいけないのは頭ではわかっているのに!!


  心に大きな穴が空いて塞がらない。


  幸人はこれ以上の痛みを味わったはずなのに、こんなことすらも弱くてどうしようもなく不完全で惨めな私は耐えられない。


 本当に自分勝手。


 私はゆっくりとスマホへと震える手を伸ばした。


 ..........................................................................だ、ダメ!!


 一歩手前でスマホを投げてどうにかその考えを追い出した。


 ............もう、やだぁ。逃げたいよ、辛いよ。





 





 

 









 


 


 

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