第20話 空虚
「雪奈、ごめんね。少しだけ遅くなっちゃった」
「大丈夫だよ。私も今着たところだからあんまり待ってないもん。それより、早く一緒に帰ろ?」
「うん」
幸奈に呼び止められたために、少しだけ遅れてしまった。本当にあいつは......と少しだけイライラしてしまったが、深呼吸を一つして雪奈の隣を歩く。
「あ、そう言えば今日は幸人の家に行っても良い?久しぶりに行きたくなっちゃって」
「え?あーうん。いいけれど」
「本当!?ありがとう。お姉ちゃんと付き合ってから幸人の家に行けてなかったから、久しぶりに行きたいなぁーって思って」
「まぁそうだね」
幸奈と付き合っている間は、他の女の人とは出来る限り関りを持たないようにしていたし、雪奈でさえ喋る機会はかなり減っていたからね。
「私、料理作るの上手くなったんだよ。幸人いつも大変だろうから私が今日は作ってあげたいなー」
「え、でも流石に悪いよ」
「いいの、私がやりたいから」
「うーん、でも……それなら二人で一緒に作らない?」
「っ!!うん。一緒に作りたい」
雪奈は嬉しそうに笑ってそう返してくれた。ここまで素直に嬉しそうな顔をされるとこちらが何故か恥ずかしくなってしまい雪奈の顔が見れない。
雪奈ってこんなに可愛....
って、俺は何処までチョロいのだ。幸奈にあんなことをされて直ぐだというのに。
俺は雪奈の事をあまり意識しない様に自分の心を強く持って帰り道を歩く。
電車に乗って、それから二人で夕飯の買い物をしてから家に帰宅。
「なんか、緊張するなぁ。久しぶりだからかな?」
「そうかも。でもあんまり変わってないでしょ?」
「うん、変わってないね。あ、そう思うとなんか安心するかも」
「それなら、良かった」
「じゃあ、早速作っちゃおっか」
雪奈と俺でキッチンに立つ。いつもは一人なことが多いから新鮮な感じがするのと同時に嬉しい。
料理をし始めてすぐ、俺は雪奈が相当練習をしたのか包丁捌きが上手なことに気付いた。日常的に料理をしている人の手捌きで、危なっかしいところなんて少しもなく、俺が一人で料理するよりも効率よく夕飯を作ることが出来た。
「雪奈、凄く上手だね」
「えへへ、そうかな?頑張って練習して良かったぁ」
「っ!!」
ニッコリと微笑んだ顔に俺はまた顔を背けてしまい、適当な理由を付けてリビングから離れてお風呂を洗いに行く。
あのままあそこにいたら雪奈の事ばかりじっと見たり考えてしまいそうだったから。
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「なんか、先週から元気ないけれど大丈夫?」
「え、あ、うん。大丈夫ですよ、先輩」
「それならいいんだけれど、辛いことがあったら言ってね」
バイトが終わりの帰り道。
そう声を掛けてくれるが、あなたのせいで私はこうなっているんですよなんて言えるわけがないし言う資格も私には持ち合わせてはいなかった。
先輩はそのまま無抵抗な私の事をギュッと抱きしめた。
体温の暖かさを感じる。だが、どうにも私の心は満たされずにぽっかりと穴が空いたまま。
...............あぁ、そうか。私はこの人に頼られることによって自分の自尊心を満たしていたのだ。私がこの人を頼ったりしても胸は空虚なままなんだ。
..........いやもっと、この人のことを知ればいいのかな?抱きしめられるだけじゃ足りないのかな?もっと肌と肌を合わせればこの胸の傷は収まるのかな?
そんなことを考えそうになってしまった所で首をぶんぶんと振って傾きそうになっていた心をどうにか戻す。それだけは..........それだけはしちゃだめ。
本当に戻れなくなっちゃうから。
私は幸人の事が今でもずっと好きなのだから。
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久しぶりですkanikuiです。
新作出します。
「女の子監禁してみた!!」を出しますのでよろしくお願いします。
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