第17話 とってもいいこと

「ゆ、幸人。おはよう」

「.......................おはよう」


 自分の席について、小テストの準備をしているとそこに何故か幸奈が現れた。一体何の用だろうか?


 最低限の会話だけにしようと言ったから、挨拶以上の事はする気は無いため俺はそのまま教科書を読み始めた。


 今回のテスト範囲はここからだよな。昨日は色々あったし最近はあの件で忙しかったり心の余裕が無かったから勉強の時間が最低限しか取れなかったから小テストの点数はあまりよくはないだろうけれど、今までの積み上げてきたおかげでそこまで酷い点数は取らないとは思いたい。


「.......................」

「.......................」


 授業中に先生が重要だと言った部分を重点的に見ていく。


「...............ね、ねぇゆ、幸人?」

「.......................」


 あー、そう言えばここは先生が小テストに出すって言っていたな。問題なく解けるけれど、一応見直しておいた方がいいな。今から小テストまで出来ることの方が少ないし。


 点を取れるところはしっかりミスなくとっておきたい。


「..........ゆ、ゆきとぉ」

「.......................何ですか?坂下さん」


 いい加減邪魔になってきたので、俺がそう返す。


 これ以上ここに居られても迷惑だし、このまま返事をしないという手もあるにはあるが、どうせ他の時間にも来るだろう。


 ならば、その用事さっさと終わらせてしまった方がまだ為になる。


「どうしたんですか?」

「ゆ、幸奈って呼んでくれないの?」

「坂下さんと別れたのに幸奈と呼ぶのはどうかと思って」

「で、でも」

「要件はそれだけですか?」

「.......................そ、そうじゃなくて。今日、朝は雪奈と一緒に登校していたんだなーって」

「……世間話をしに来たの?例えそうだったとしても、坂下さんには関係ないよね?俺と雪奈が一緒に登校していたとしても」

「そ、それは……そう、なんだけれど。えっと...........」

「話すことはもうないよね?俺、小テストの準備しないといけないから。最近、色々忙しかったから」

「っ!!そ、そうだよね、ご、ごめんね。それと...........あの事も本当にごめんなさい。許されないのは分かってるけれどそれでも、ごめんなさい」

「..........」


 それだけ言うと、幸奈は俺の席から離れて行った。


 .......................今更どうして。そんな感情が湧いてきて、胸がもやもやとしだすが考えても仕方がないと頭を切り替えて小テストの勉強をし始めた。



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 今頃、幸人は何してるんだろうなー。


 私は友達との会話をしながらそんなことを考えている。別に友達の話を聞いていないわけではない。


 だが、大抵の事は話半分も聞いていればいいくらいの内容の薄い、同意を求めた事故承認に駆られた話の為、聞く意味があまりない。


 それならば好きな人の事を考えた方がずっと賢明だろう。


 ……っていうのは少しだけ友達に失礼だね。


 だけれど、ずっと思い続けてきた幸人と良い感じになってきているのだ。頭が幸人の事でいっぱいになっても仕方がないというか。


 それにしても、お姉ちゃんのあの顔。


 家を出るときにはメイクで誤魔化してたけれどまともに寝れてないんだろうなと言うのがすぐにわかった。

 

 私が「おはよう」と言うと体をビクッとさせていてとっても滑稽だったなぁ。思わず笑いを堪えるの大変だった。


 それに私と幸人が仲良く登校するところも隠れてみてるの気づいてたんだよ?幸人は気づいていなかったかもしれないけれど私は分かった。


 今のお姉ちゃんの心境は、あの顔を見る限りかなり辛いだろうね。そうだなぁ……今日のマラソンでまた幸人と仲を更に前進させてお姉ちゃんを苦しませてからさらに追い打ちでお母さんに幸人と別れた理由を話しちゃおうかな。


 いつかどうせ話すことになるんだから別にいいよね?


 私の大好きな、愛している人をあれだけ傷つけたんだからこれくらいは当然だよ。


 昔、お姉ちゃんに助けられることが多かったし、幸人と付き合うのも守られてばっかりの私とは釣り合わないのは納得してたから我慢もできていたけれど、浮気をするクズより下ではないと思っている。


 幸人はきっとお姉ちゃんを許さないだけで多分何もしないだろう。それだけでもお姉ちゃんの様子を見ている限りではそれだけでも効果は覿面だけれどそれだけでは私は許せないから。


 幸人、愛してるよ。お姉ちゃんには一度は諦めて渡しちゃったけれどもう誰にも渡さないから。


「雪奈?どうしたの、そんなに口元ニヤニヤさせて」

「え?あ、ほんと?ごめんね」

「いや、別にいいんだけれど、何かいいことあったのかなって」

「そうだね、とってもいいことがあるしきっとこれから更に良いことがあるだろうなって」

「......?よく分からないけれど良かったね」

「うん」


 

 




 


 


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