第15話 幸せの御裾分け

『こんばんわ、幸人。今、時間大丈夫?』

「うん、大丈夫だけれど」

『それならよかった。あのねその................あのこと、なんだけれど』


 俺と雪奈の中であの事と言えば幸奈の浮気、俺と幸奈の関係がどうなったのかということだろう。


 まだ、雪奈には結果を伝えていなかったな。多分、家に帰ってきた幸奈の反応である程度の察しはついているだろうけれど。


「幸奈とは別れたよ」

『そう、なんだ。良かった。……お姉ちゃんの反応である程度は分かっていたけれど、一応幸人から聞いておきたくて。ごめんね、辛いのに』

「いや、大丈夫だよ。幸奈と別れられて................スッキリしてるから。ありがとね、雪奈。俺の相談とかに乗ってくれて。本当に助かった。雪奈がいてくれて本当に良かったなって思う」

『っ!!そ、そっか。幸人の助けに成れたなら私は嬉しいから良かったぁ』


 本当に、俺一人であの浮気現場にいたら辛すぎて一日どころか数日寝込んでいたかもしれないからな。それにあの日だけじゃなくてそれからも俺のことを心配し続けてくれていたし。


 ................比べちゃいけないんだろうけれど、幸奈とは大違いだよな。見た目、声は双子だから凄く似ているけれど性格とか心持とかは全く違う。


 雪奈は自分の為じゃなくて俺の為に、人の為に動ける人間で、凄く優しくて...........俺を目指しているって言っていたけれど、もう既に俺の事なんて追い越しているくらいには雪奈は十分大人びていると思う。


『そ、それでなんだけれど、幸人』

「どうしたの?」

『えぇーっと、ね?嫌なら断っても全然いいんだけれど、その................前みたいに一緒に寝落ちで通話したり……なんて』


 電話越しでも恥ずかしそうにしているのが分かるぐらいには照れた様子でそう言ってくる雪奈に思わず、可愛いな、なんて思ってしまった。


 幸奈と別れると決断してからそんなに時間も経っていないのに、俺は雪奈に対して恋心に近い感情を抱き始めている。


 浮気もされたのに、恋愛からは今は少し遠ざかろうと思っていたはずなんだけれど、俺と言う男はどうやらちょろいのかもしれない。


「……雪奈がいいなら、俺は通話してくれると嬉しい」

『ほ、ほんと!?ありがとう。断られるかなって思ってたから。本当に嬉しいな』


 喜色を滲ませた声でそう返してくれる雪奈に思わず、笑みがこぼれた。

 

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 幸人が私との寝落ちの通話を了承してくれたことに嬉しさで顔のニヤニヤが止まらなくなってしまう。


 ずっと、こうしたいって思っていたから。

 

 私の前にはいつもお姉ちゃんがいて、幸人にはこうすることすらできなかったから。ずっと諦めてきたから。我慢してきたから。


 はぁ..........それにしても、帰ってきた時のお姉ちゃんの顔。


 物凄く辛そうな顔していた。どうして、そんな辛い顔するのかは全くと言っていいほど分からない。何倍も辛いのは幸人のはずなのに。


 私の恋心を踏みにじって、幸人の愛情を無下に扱って。お母さんと唯人さんの応援も無視して。


 私の方がここ数年間ずっと辛かったし、泣きたかった。


 私の幸人への思いは時が経つほど重くなっていくのに、幸人へは触れてはいけない。幸人の幸せを願って私はあんまり近づかなかったし、幸人とお姉ちゃんの恋を優先していたのに。


 どれほど幸人からの愛情に焦がれていたか。


 ........................あー、ダメダメ。思わず嫉妬と怒りでこのままお姉ちゃんの部屋まで言って殴り殺したくなってしまったが、幸人の事を頭で思い浮かべながら、今聞いている幸人の声に耳を傾けて落ち着いた。


「幸人が眠くなったら、いつでも切って良いからね」

『いや、雪奈こそ切っていいからね』

「私は幸人が寝るまで寝ないもん」

『俺だって雪奈が寝る間で寝ないよ』

「絶対寝ないから」

『俺だって』

「私だって」

『絶対に俺の方が寝ないから................ぷっ、あはは』

「ふふっ」


 普段落ち着いた雰囲気の幸人がこういう下らないことに意地を張ってくれたのが可笑しくて思わず笑ってしまった。


 あぁ……なんて幸せなんだろう。

 

 幸人、大好きだよ。愛してる。


 こんな小さなことでさえ、幸せを感じられる普通の人間で良かったなと心底思う。

 その後、私達は遅くまでずっと話した。


 何気ない、ほんの小さな話題でも私は幸人と話せることが幸せで楽しかった。


 この幸せが誰かに届いていたらいいな。


 そうだなぁ................あわよくばスピーカーに設定した幸人と私の楽しそうな、幸せな声が、隣のお姉ちゃんの部屋まで届きますように。






 


 

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