第14話 スマホが鳴った

『今日、デートしない?幸人の家でも私の家でもいいから』


 このメッセージを送ったその日、数十分おきに既読されていないか見てみるものの、全く既読と言う文字は付くことは無かった。


 いつも私がメッセージを送ればどれだけ遅くても二時間以内には返してくれていたはずなのに。幸奈から聞いた言葉で私の心臓がドクドクと鼓動して、その日はずっと幸人の事を考えていた。


 もしかしたら、本当に別れることになるんじゃないかと思えてしまってならなかった。雪奈が言うには、幸人は私が冷たくして辛くて別れたいと言っていたみたいだ。私が幸人に友達と遊んでいると嘘を吐いて、優斗先輩と遊んではいることは分かっていないみたい。


 ならば、今までのような冷たい態度を止めれば別れるなんて事にはならないんじゃないかと思って、送ったメッセージのはずだったのだけれど。


 ................きっと大丈夫、だよね?きっと今は私に冷たくされたからその裏返しで私に対して冷たくしようとかそう思っているんだよね?


 ……必死にそう思うけれど、どうにも不安が拭えなかった。幸人がこんな仕返しをするような子供っぽい人間じゃないことを私が知っているから。で、でも明日会って、直接話せばきっと幸人も話を聞いてくれるはず。


 ................なんて、全てが甘かった。今更メッセージを送ろうが、幸人に対して優しく前のような恋人関係を作ろうが何もかもがもう遅い。幸人の心が私から完全に離れてしまっているから。


 幸人が怒っている……いや呆れて無関心に近い状態になっているのは私の浮気を知っているから。


 あぁ................私は何て事をしてしまったんだろう。


 今、目の前にいる幸人へと視線を向けることすら怖いけれど私は幸人と目を合わせ、今出来る最大限の謝罪をするしかない。



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「幸奈。俺たち別れよう」

「.......ごめんなさい、幸人。ごめんなさい」


 浮気している写真を見せつけて、俺は幸奈にこういった。


 すると幸奈は俺と目を合わせたかと思うと、頭を床すれすれまで下げて謝罪をし始めた。


 .......今更、こんなことされたところで俺にどうしろと言うのだろうか?ここで、俺が許すとでも思っているのだろうか?


 たとえ許したとしても、その後の俺たちの関係を元通りに出来るなんて俺は到底思えない。俺はきっと幸奈をずっと疑い続けなければいけない。そんな関係が長く続かないのは容易に想像できるだろう。


「別れよう」

「ごめんなさい、幸人。ほんとに、違うの。私はずっと幸人の事が大好きなの!!ごめんなさい、本当にごめんなさい」

「ならどうしてっ!」


 そう言いかけて止めた。そんなことを今幸奈に言ったところでこの場が収まるわけではない。


 一度大きく深呼吸をして沸点に達しそうな頭を一度冷静にさせる。


「いや、何でもない。もう幸奈とはこれ以上話すことは無いよ。俺の意思は絶対に変わらないから」

「ごめんなさい、本当に別れたくないの。ごめんなさい.......幸人」


 俺が何度もそう言うが、下げていた頭を上げて俺に縋るようにそう言ってきた。


 どうして、そこまで俺に縋りつくのか分からない。あの映画館に仲良く入っていった男の人がいるじゃないか。


「幸人、違うの。幸人の事は大好きだけれど......」

「……」

「あの……ね?」


 そう言って、から一度大きく深呼吸をして話し始めた幸奈から出た言葉の数々を聞いた俺は、怒りを通り越して、呆れてしまった。


 幸奈から放された言葉は想像を絶するものだった。


 同年代の俺が大人っぽく見えて完璧に見えてしまったこと。そんなときに現われた浮気相手を甘やかすことによって自尊心を回復していたこと。


 浮気相手と接することによって俺の嫉妬心を煽って気持ちよくなっていたこと。


 呆れて物も言えなくなってしまうとはこのことか。

 

「................別れよう」

「……」

 

 俺は何度も話し合いを設けようとしたが、それを拒否したのは幸奈だったし今の話を聞いて余計に別れようという気持ちが強くなった。


 ................雪奈は俺の事をあれだけ考えて行動してくれたというのに。大人っぽい俺を目指して努力しようとしてくれているのに。


 幸奈と言えば、そこから逃げて沼に嵌ってしまっている始末。


 ここまで言ってしまえばもう呆れるしかない。怒る気も失せるというものだ。


「これからは俺と出来るだけ関わらないで欲しい。最低限の挨拶だけにとどめよう」

「................ぃゃ」

「もう無理なんだ。今日は帰ってくれ」

「................ごめんなさい」


 幸奈は俺がどれだけ謝っても許す気配がないことを悟ったのか、涙を拭いて最後にそう呟いて部屋を出て行った。


 もう少しここに留まられていたら、したくはなかったが強引にここから出さなければいけなかったため良かった。

 

 .....ふぅ。


 大きく深呼吸をして、息を整え頭を一度クリーンな状態に戻す。そんなことをしていると、幸奈と入れ替わるようにして父さんが家に帰ってきた。


 あ、そう言えば家の家事を一切やってなかった。もう少し早く終わるって想定していたのにな。


「おかえり、父さん」

「ただいま、幸人。……幸人、さっき、幸奈ちゃんが泣きながら家から出て行ったけれど」


 そう言えば、まだ父さんには幸奈が浮気をしていたことを伝えていなかった。


 絵理さんに話したからてっきり話したものだと思っていた。


 父さんは俺と幸奈の関係を応援していてくれたためにこうして改めて伝えるとなると少しだけ勇気がいるが、落ち着いて父さんに幸奈と先ほど別れたこと、そして浮気をされたことを話した。


 俺が語っていくと同時に悲しい顔を見せたり、辛そうな顔を見せたりして俺の頭を絵理さんよりも皴の多い男の手で撫でてくれた。


「そうだったのか。ごめんな。話すのも辛かっただろう?」

「いや、いつかは言わなきゃいけないことだったからそれが早まっただけだよ」

「……よしっ。今日の家事は俺がやるから、幸人はそこで寛いでいてくれ」


 そう言って、ワイシャツの袖を捲って俺の代わりに家事をしようと父さんが意気込みだした。


「いいよ、父さん。俺がやる」

「だけれど……」

「いや、いつも通りにしてないとなんか調子狂うし」

「そうか……」

「あ、だけれど父さんの作った夕食は食べたいかも」

「分かった!!任せておけ」


 何も不安を感じさせない笑顔でそう返事をしてくれた父さんが今の俺にとってはありがたかった。


 その後は特段俺と父さんの間には気まずい空気が流れることもなく、家事と勉強をし終え、父さんが作ってくれた夕飯を一緒に食べて、お風呂に入り、自室に戻るともう11時を過ぎていた。


 ................今日は色々あったし寝るか。


 そう思って電気を消したところで、スマホが鳴った。


 画面を見てみると雪奈だった。







 






 


  

 



 

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