第12話 ゾクゾクした

 私がバイト先の先輩................三村優斗みむらゆうと先輩に出会ったのは、バイトに入って二週間ほどしてからだった。


 初めて同じシフトに入っていったいどんな人なのだろうかと思った板が、どうやら大学生のようで私よりも年上だった。彼は気一見大人しそうでクールな印象を受けたし、実際に私も大人っぽい人なんだろうなとそう思っていた。


 だが、彼は意外とずぼらと言うか抜けている所があって、バイトでのミスを後輩の私がカバーしたりすることだってあったし、便りのないところもいくつかみた。


 他の人は鈍臭いだとか言っていたし、私も最初は鈍臭いとか私よりも年上なのになとか思っていた。


 だけれどそれと、同時に私よりも年上なのに大人であるはずなのに私以上にダメな人がいるとそう思えてしまって、私は幸人がいるのにも関わらず彼と良く話すようになっていった。


 本当に最初は、友達として話すこと以上が無いと区切りをつけて彼に接していった。優斗先輩にも彼女がいたから。そういう関係になることは無いと思っていたし。


 彼と話していく内にやはり彼は鈍臭かったりするが、優しいところもあり、良い友達として接していくことが出来た。


 幸人の誕生日が来て、本来はバイトを辞める予定だったけれど、私は幸人の隣に立てる立派な恋人になるという理由を付けてバイトを続けることにした。


 私がバイトを続けた理由は、優斗先輩と喋りたかったということもあったが大好きな幸人が私と一緒の時間が減って寂しそうにしてくれることもあるからだ。


 本人は隠しているつもりだけれど、目元が少しだけ悲しそうにしているのを長年の幸人と一緒にいた私は気づいた。あの完璧で私よりもずっと大人で大好きな幸人が私に対して嫉妬の感情を抱いてくれるのが嬉しくて堪らなかったということも大きくあると思う。


 そんな日々の中で大きな変化が起こった。


 優斗先輩が、彼女と別れたことを本人から聞いた。バイト先の中では彼と私の仲がかなり良かったため、バイト終わりに悲しそうな目で


「俺、彼女と別れたんだ」


 とそんなことを言っていた。


 私よりも大人な人であるはずなのにこれほど弱弱しくしていて、どうにもいたたまれなくなってしまって私は、思わず「大丈夫ですか」と手を握ってしまった。


 優斗先輩の情けない姿に思わず惹かれてしまった私は、手を握るだけでなくそのまま抱きしめてしまった。


 幸人の事を当然抱きしめているときに思い出して、胸が苦しかったし辛かった。が、幸人の事を裏切っている背徳感というものがどうしようもなく背中を伝ってゾクゾクした。

 

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