第9話 電車
幸奈から逃げて電車に急いで逃げ込んだ後、ふぅと息を吐く。
「幸人、足速すぎだよ。全然追いつかなかったんだけれど」
「雪奈」
顔を上げると、そこには髪が若干だけ乱れた雪奈がいた。息を整えると雪奈は俺の隣に腰を下ろす。
「幸人に途中で声かけたのに、私を置いて行っちゃうんだもん」
「ゴメン、急いでて」
幸奈から出来るだけ早く離れたかったから、雪奈の声に気付かなかったようだ。
「どうしたの?あんなに急いでて。何かあった?」
「あー、ええっと............」
「もしかして、お姉ちゃんと何かあったの?」
「うん」
先ほどあった事を、雪奈に正直に話す。すると、雪奈は顔を嫌そうに歪めた。
「きっと、幸人がお姉ちゃんに逆に冷たくし返したからもしかして自分の浮気がバレたかもしれないって焦ってるのかもね」
「そうかもしれないな。それでなんだけれど、明日幸奈に別れを切り出そうと思うんだ」
「明日?放課後に?」
「うん。出来るだけ早く別れてこの関係を終わらせたいから。その方がお互いの為になるだろう?」
お互いの為になると言いつつも、ただ俺が早く幸奈と別れたいだけの言い訳に聞こえてしまうのは、少々俺の心がささくれているからだろうか?
「そうだね。それが良いよ。でも、大丈夫?幸人の中でちゃんと気持ちの整理はできた?」
「..........うん。考えてみて、俺なりの答えはもう出てるから」
「そっか。じゃあ、もう私は何も言わない」
雪奈は、笑顔でそう言って口を閉じた。
..........何だろう、今までも雪奈と接する機会は多かったはずなのに、ここ数年間はずっと幸奈の事を見続けていたから、大人っぽい雪奈が俺の目に新鮮に映った。
以前、俺に大人っぽいなんて言っていた雪奈はもう俺なんか比にならないほど大人になっていた。上から目線で雪奈の手本になれる云々と語っていた数か月前の俺をしかりつけたくなるほどだ。
「あ、幸人。今日、久しぶりに幸人の家行ってもいい?」
「俺の家?」
「うん。お姉ちゃんと幸人が付き合ってからほとんど行くことが無くなっちゃったから、久々に行きたくなっちゃった」
「.......一応、まだ付き合っているんだけれどな」
「あ、そうだよね。じゃあ、別れた後に行ってもいいかな?」
「それなら、うん。良いよ」
「やった。久しぶりに幸人の家に行ける。あ、そうだ。私、結構料理作れるようになったんだ。幸人、毎日勉強して家事もして大変だろうから、その日は私が料理作ってあげるね」
「え?良いのか?」
「うん、任せておいてね」
その後、分かれ道まで幸奈と一緒に並んで帰った。
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