第8話 こいつの気持ちを理解できない様に
「今日は、連絡することは……ないな。帰りにしっかりと掃除をするように。それじゃあ、さようなら」
教師が教壇から下りて、去っていく。
さて、俺も帰るとしますか。
今日は一段と疲れたし。
理由は明確で、幸奈である。朝の出来事と同じようにあれからずっと幸奈が俺に絡んでくるのだ。
「幸人、何か飲みたい飲み物ある?良かったら、自販機まで一緒に行かない?」
「……」
とか、
「幸人、一緒にお昼ご飯食べよ?私お腹すいちゃっててさ」
「..............」
とこれだけでなく他にも休み時間が来るたびに俺の席へとやってきた。ここ数か月で一番と言っていいほど幸奈に喋りかけられただろう。
そう考えてみると、俺と幸奈の関係は冷静になって考えてみれば冷え切っていて、俺から見れば相思相愛に見えていたものは他者からみたら破綻しているように見えていたのかもしれない。
恋愛と言うものは人をダメにする、それは絵理さんが言った言葉だった。
確かにそうだと俺も浮気をされた今なら思う。
幼い俺は、じゃあ何でみんなは恋愛をするのと聞いたことがあった。
絵理さんは少し考えた後、俺に対してこういった。
恋愛をしなくては人は色んな面で枯れてしまうから、人がもっとダメになるから、かな。
恋愛をするとダメになるのに、恋愛をしないともっとダメになるの?
幸人。人間の心と言うものはどれだけ理解しようとしても完璧には理解何てできない。それが顕著に出るのが恋愛だと私は思う。今は難しいと思うけれど、もっと幸人が成長したらわかるようになるかもしれない。まぁ、恋愛を疎かにしている私が言うのは説得力に欠けるけれど。
そう言って絵理さんは自虐気味にははっと笑っていたのを覚えている。
当時は絵理さんの言ったことを恋愛と言う物すら理解できていなかった俺には何を言っているか全くと言っていいほどわからなかったけれど、今になって考えてみると少しくらいは分かった気がする。
人間の心を理解するのは完璧にはいかない。
「ね、ねぇねぇ幸人」
「..............」
俺がこいつの心を理解できない様に。
「ねぇ、今日は友達とは帰らないで、幸人と帰ろうと思うんだ。最近、ずっと友達と帰ってて恋人の幸人を放ってたもんね。ゴメン、きっとそれで怒ってるんだよね?ごめんね、今日は一緒に帰ろ?」
「................」
本当はもっとちゃんとした場を設けて幸奈としっかりと線引きを決めて、もう関わることが無いようにしたかったけれど、今すぐにでも言ってしまいたいほどの怒りが募るが抑える。
幸奈が只の恋人ならば、テキトウに別れを切り出して「はい、終わり」でも良いのだけれど、幸奈には関わらずとも雪奈や雪奈達のお母さんである香織さんには関わる機会があるからそうにもいかない。長年の付き合いと言うものは良い方向へと作用するときもあるが、こういう場合は面倒だなと思ってしまう。
長い付き合いの思い出はいつまでも残っているだろうと思っていたが、掠れて風化していく。そのまま崩れ去って俺の頭から無くなって欲しいものだ。
「ゆ、幸人。返事位してくれると嬉しいな?ね、ねぇ、幸人?」
「............はぁ。幸奈。明日の放課後。時間あるか?」
「明日の放課後?う、うん、大丈夫。時間あるよ。友達とは遊ばないから」
一生、そのお友達とやらと遊んでいてくれと思わなくもなかったけれど、グッと堪える。怒りで理性を溶かしてはいけないと絵理さんに教えられたから。でも朝の時に「……はぁ、うるさい。どこか行ってくれ」とあまりのしつこさに言ってしまったが。
「大事な話があるから。それじゃあ」
「わ、分かった。い、一緒にかえ...........」
俺は幸奈の静止を無視して、歩き出す。
徐々に足を速め、俺は学校を飛び出して電車に駆け込む様に乗った。
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