第7話 何も話すことは無い
「ふぁ.................朝、か」
土曜日、そして日曜日も過ぎさり今日は憂鬱な月曜日になった。
昨日絵理さんに抱きしめられて、撫でられてあの出来事について沢山励まされて俺はもうあのことについて、どうでも良いと考えている。
幸奈のことがあれだけ大好きだったはずなのにな。沢山良い思い出があったはずなのに。将来を誓い合った仲だったはずなのに。
そう思ったけれど、今となっては俺の中で整理がほとんどついて風化した思い出となってしまった。あの良かった思い出さえもどうにも腹立たしくて仕方がないというか、複雑な気持ちになってくる。
絵理さんに話をして、俺の中で明確に幸奈とはキッパリと別れて関係を終わらせてもう二度とあいつとは関わらないという答えが出た。
小説のように徹底的にやり返しをしてズタズタにしてやりたいなんて思いもしたけれど、それよりももうあいつとは縁を切って関わらない。これから一生あいつの事を赦すことはしないと決めた。
あいつに復讐する時間すら勿体ないと思った。あいつに時間をかければかけるだけ無駄だ。
一つ息を吐いて、体を起こしカーテン、窓を開けて空気を取り込む。
頭が幾分かクリーンになった所で、洗面台へと行き顔を洗ってからキッチンに立つ。
今日はご飯炊いてないし、パンだな。
なら、ハムエッグとかでいいか。
メニューを決め終えて、早速作り始める。そこまで難しいものでもないし簡単、そして作りなれているから時間を要すことなく作り終えた。
時計を見ると六時半に差し掛かっている。そろそろ倒産が起きるころだな……
「ふぁ……おはよう、幸人」
「おはよう、父さん。すごい寝癖だよ?」
「マジか、直してくる」
大きなあくびをしたまま、洗面台へと向かうためリビングから去っていく。
その間に朝食をテーブルへと運んで置く。父さんがリビングへ戻ってきたところで朝食を取り、食べ終えたら身なりを整え学校へと行く準備をして、外へと出た。
俺の家から駅までの距離はそこまで遠くはないので案外早く着いた。
「だーれだ」
「……雪奈」
「正解」
後ろを振り向くとそこには雪奈がいた。もしこんなことを幸奈が俺にしてきたら殴ってしまっていたかもしれない。流石に浮気をされたからと言って、暴力を振るうような奴にはなりたくはない。
.................それにしても、何でだろう?雪奈が可愛いのは知っていたけれど、今日は一段と可愛く見えてしまう。
別にそう見えることが悪いことではないんだけれど、どうしてだろうか?まさか、俺と言う人間は、雪奈の事を.................。
それは流石に節操がなさすぎるな。
「一緒に登校してもいい?」
「うん」
同じ車両に乗り込む。学校まであまり離れていない為十数分程度で着いた。
電車から降りて改札をくぐり、学校へと向かう。
「幸人」
「ん?」
「日曜日、お姉ちゃんから何かされたり、言われた?」
「何もなかった……あー、いや、なんか幸奈から連絡来たような気がする」
「なんて?」
「確か……『今日、デートしない?幸人の家でも私の家でもいいから』だったはず」
「へぇ……そうなんだ。幸人はお姉ちゃんに何て返したの?」
「え?何も返してないよ。そのまま放置してる。多分今頃結構メッセージが溜まってるんじゃない?」
「そうなんだ、良かった。幸人は優しいからてっきり返事を返しちゃうのかと思った」
雪奈はそう言うと安心したように胸を撫で下ろした。
付き合っているころ(まぁ、まだ付き合っていることにはなっているけれど)ならば喜んで返しただろうけれど、そこまで俺はできた人間ではないから。
二人でそのまま適当に雑談をしながら学校へと行き、それぞれクラスが違うため雪奈とは一旦そこで別れる。
教室へと入り、自席に着いてすぐにこちらへと寄ってくる人物がいた。
それは.................
「幸人、おはよ」
「.................」
「どうして、連絡返してくれなかったの?最近、幸人とデート出来てなかったから、せっかくデートしようって思ってたのに」
俺の目の前に現れたのは件の幸奈だった。
俺は幸奈と話すことはせずに、そのまま無視をし続ける。
「ねぇ、幸人?どうしたの?なんで、怒ってるの?」
「……」
「ねぇ、どうしたの?」
幸奈がそう言ってくる。
どうしたの?なんで怒ってるの?そんなのお前の無責任な行動に対して怒っているに決まっているだろうが。あぁ、なんか、声を聞くだけでムカついてきた。浮気をしている分際でこうして平然と俺の目の前に立って何気ない顔でそんなことを言ってくる。
付き合っているころならば(今も一応付き合っている状態ではあるが)幸奈に心配されて嬉しかっただろうが、今となっては物凄くウザい。何処かにさっさと消えてほしい。こいつとは口も利きたくはないとそう思う。
「ねぇ、幸人?喋ってくれないと分からないよ」
「……はぁ、うるさい。どこか行ってくれ」
「……え?」
自分でも驚くほど冷たい声が出た。
俺の言葉にびっくりしたのか幸奈は固まってしまった。
「ゆ、幸人。本当にどうしたの?わ、私何かしちゃった?」
「……」
その後、先生が来るまで幸奈は俺の席へと居たが、俺は一度も口を開くことは無かった。
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