第5話 そのキスはいつか電子を超えるのか?

 雪奈の献身的な支えによってどうにか元気を取り戻した俺は、映画館から出てきたあの二人の写真を撮ったり、仲が良さそうにしている所の写真を撮ったりと決定的な写真を撮ることに成功して、尾行をするのを辞めた。


 そして、雪奈と少しだけ話した後に解散し、今は粗方家事を終えて、ベッドの上でゴロゴロとしている所である。


 考えない様に無心で家事を熟していたため気が紛れていたが、やはり暇になってしまうとどうしてもあの幸奈の笑みを思い出してしまい、胸が苦しくなるのと同時に段々と俺も幸奈との関係を割り切ることが出来始めているのかイライラし始めている。


 あの浮気の場面を見た時はただ純粋に悲しくて、幸奈との思い出が蘇ってきて胸が締め付けられる思いをしたが、今ではその思い出が逆に俺をイラつかせてきている。


 どうしようもない思いを誰かにぶつけられるわけでもなくベッドに寝転んでいると、玄関が開く音がした。きっと父さんが休日出勤から帰ってきたのだと思う。


 リビングの方へと顔を覗かせると、やはり父さんがいた。


「ただいま、幸人」

「おかえり、父さん」

「.........幸人。どうした、何かあったのか?そんなに浮かない顔をして」


 かなり顔に出ていたのか、帰ってきて早々父さんにバレてしまっていた。


「……いや、何でもないよ。ただ、眠いだけ」

「そうか。なら、良いんだが。何かあったら言ってくれよ?幸人になんかあったら天国の母さんがきっと俺を怒るだろうから」

「ははっ、そうだね。分かった。ご飯作り終えてあるから食べる?」

「あぁ、じゃあ食べようかな」

「分かった。ちょっと待ってて」


 父さんと話していると幾分か気が紛れて楽になった。


 一緒にご飯を食べて、今日は父さんが皿洗いとその他の家事をしてくれると言ってくれているので、俺はそのままお風呂へと入り、髪を乾かして手入れをしてから歯磨きをして、そのままベッドへと潜る。


 勉強は……今日はする気にはなれないかな。


 俺は何も考えたくなくて、そっと目を閉じて寝ようとするとスマホが振動した。画面を見てみると、雪奈せつなと書かれていた。


『こんばんわ、幸人。今、大丈夫かな?」

『うん。今は暇だよ。ベッドに入って寝ようとしてただけだから」

『そっか。ごめんね、寝ようとしてるのに』

『大丈夫だよ。それで、どうしたの?』

『あぁ.........えっと、幸人大丈夫かなって。色々考えて塞ぎこんでないかなって心配になって。私なんかでも話し相手になれたら少しは気が紛れるんじゃないかなって思ったんだけれど』


 そう申し訳なさそうに電話越しにしている雪奈の顔が思い浮かぶ。


『ありがと、雪奈。じゃあ、どっちかが寝落ちするまで一緒に喋ってよっか。雪奈はこの後は寝るだけ?』

『え!?う、うん。寝るだけだよ』


 スマホがゴソゴソと音を鳴らしている。きっとベッドへと潜ったのだろう。


 その後、二人で他愛のない話をしたりしていると眠気が襲ってきた。


 寝てしまう前に、雪奈に言わなければいけないことがある。


『雪奈』

『ん?どうしたの?』

『今日は本当にありがと。雪奈のおかげで凄く気が楽になったよ。雪奈がいてくれて良かった』

『っ!!そ、そっか。それなら、良かった』


 俺はそのまま眠りに落ちて行った。



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 幸人が寝息を立てながらスウスウと寝ているのがスマホ越しで分かる。

 

 私はスマホを思わず自分の胸に抱いて、あたかも幸人を抱いているかのように妄想してしまう。


『今日は本当にありがと。雪奈おかげで凄く気が楽になったよ。


 何度思い返しても、ドキドキとして興奮してしまう。


 眠気で若干フニャフニャしつつも、しっかりとした言葉でそう言ってくれた幸人に愛が止まらなくなってしまう。愛?母性?その他諸々の感情がごちゃ混ぜになるが、明確なのは幸人の事が好きだという感情である。


 今日は家に帰ってからもずっと幸人の事を考え続けていて、勿論、幸人に話した理由もあるけれど、それよりも私は単純に幸人と会話が少しでも出来たらいいななんて思って電話をしてしまったが、まさか寝落ち通話できるなんて思ってもいなかった。


 段々とフニャフニャしていく幸人可愛かったな。


 ……それに比べて、私の姉ときたら


「私がどこに行ってたの?」


 と聞くと、焦った様子で


「と、友達と映画を見に行ってた。わ、私、お風呂入ってくるね」


 とそう言って逃げ足で去っていく始末。


 随分と仲がいい男友達ですこと。

 

 本当に虫唾が走る。あんなのが姉だなんて今となっては思いたくもない。姉は幸人を裏切ったことも当然だが、私が幸人の事を好きだということを知っていてそういうことをしたのだ。


 本当に反吐が出る。


 どうして、幸人をあんな人に渡してしまったのか過去の私すらぶん殴ってしまいたくなる。


『すぅ.........すぅ』


 スマホから聞こえる幸人の寝息で私の心はどうにか落ち着きを取り戻した。


『幸人、おやすみ……ちゅ』


 私は液晶に軽くキスをしてから通話を切った。




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